無真獣の巣穴

らくがきとかゲームとかなんかそんなん。

Dragon Age: Inquisition プレイ記録(16) 補足

※この記事には作品の核心にかかわる重大なネタバレがあります。

 

プレイに2年以上かかっていることと、プレイしていなかった時期がかなりあったのとで少々自分もうろ覚えになっているところが多く、一応コーデックスやwiki、書籍の機械翻訳を眺めながら記事を書いているが、前回の記事についてはもう少し書くべきことがあると感じたので補足をしておこうと思う。

 

"アンドラステ教における創造主の逸話はかなりの部分でフェンハレルと重なっている" と前回書いた。招かれざる客で見ることができる遺跡の記憶で、フェンハレルがエヴァナリスの奴隷たちを解放しているものがあったが、それ自体はおそらくアンドラステが創造主の助けによってテヴィンターの奴隷を解放したとされる奴隷解放とはまた別件のものだと思われる*1。あの遺跡に残っていた記憶にはフェンハレルがほぼ単独で奴隷たちを導いているような印象が強かったため、やはりアーラサンが滅びたときのものと考えた方がよさそうだ。もしかしたらどこかに年代が推測できるような情報もあったかもしれないが、今回は見つけることができなかった。
しかし、のちにアンドラステに協力した可能性ももちろんある。エルフの奴隷を解放しているという点で、やはり行動の傾向として重なる部分は多い。今も同じようにエルフを解放しようとしていることを考えると、1000年おきくらいに同じことを繰り返している可能性がある*2
ヴェイルを作ってフェイドとこちら側の世界を分断したのがフェンハレルだということはほぼ確定しており*3、その部分については創造主=フェンハレルが成立してはいる。ただ創造主について残っていることは伝説的なものなので、事実とはかなり違っていたり、まったくの別人の行為が含まれていたりなどもあるだろう。もちろんソラスが「自分が神(創造主)だ」と言っていたとも考えにくい。むしろ「我々は神などではない」という主張だったはずだ。そういう意味では、事実がどうあれ、たとえ重なるところがあったとしても、創造主とフェンハレルは同一ではない。

審問官だって、誰がどう呼ぼうが「アンドラステの使徒」などではなかったし、そう呼ばれることを望んで引き受けたわけでもない。少なくとも今回のプレイでは一貫して否定し続けてきた。「審問官」すら望んでなったわけではない。それと同じようなことだ、とソラスも確か言っていた。

 

前回や前々回のプレイではとらえられなかった「フェンハレル」の側面が、今回少しつかめた気がしている。
デイルズの伝承においてのフェンハレルはエヴァナリス側の立場で語られてきたゆえに、「狡猾で残酷で恐ろしい裏切り者」という偽りの姿で描かれてきたのだと、これまでのプレイでは解釈してきた。しかし、あながちそこまで偽りというわけでもなかったのではないか、というのが今回の気づきだ。
ソラスは審問会の仲間でもあったし、前回・前々回の審問官*4に設定していた性格がかなり気優しい傾向にあり、慈悲的で、ソラスへの信頼度も高かった。そのロールプレイの影響で「いつも思慮深かった自分の大切な友人が、そんなに残虐であるはずはない」という解釈が発生した。
しかし、今回の審問官は友情や愛情といった感情がないわけではないものの、あまり共感的なところはなく、倫理は考慮するが基本的に利己的で慈悲はない。そうしたロールプレイからとらえたソラスは、「思慮深く慈悲もあるが、もしかすると想定以上に危険な別の面を隠している存在かもしれない」というものだ。
そのように解釈すると、ソラスが審問官にヴェイルの測定の名目で装置を起動させたこと、さらに「印」から審問官を切り離したことさえ、別の目的が隠れているのではないかと思えてくる。嘘は言っていないかもしれない。しかし、本当のことも言っていない。

以前レリアナの「多面性」について記事に書いたが、それとはまた違った意味でソラスには恐るべき「多面性」があるかもしれない。
ソラスは審問会を欺いたが、単に狡猾なだけではないし、利己的というわけでもない。過去の行為への罪悪感を持ち、エルフを救いたいと考えている様子なのは明らかだ。ただし、その救いたい対象がかなり限られているらしいうえに、それ以外のものの犠牲をどれだけ考慮しているかがつかみきれない。
Dragon Age 2でのアンダースのことを少し思い出すが、ソラスは具体的な苦悩の様子さえほとんど表してはいない。ポーカーフェイス、徹底した秘密主義だ。もちろん審問会においての会話で、ある程度の苦悩や自分の背景についての断片は表されていた。しかし、重要なことは何も語らない。「出せるところまでしか出さない」計算高さがうかがえる。レリアナが教皇や救世主、審問官などの誰かの存在によって大きく揺り動かされてきたような、アンダースが激しい苦悩の中で思い詰めて凶行に走ってしまったような、そうした不安定さがソラスには感じられない。もちろん内心では色々あっただろうが、その心の内を本当の意味で誰かに明らかにすることがない。


ソラスは慈悲と冷酷さの両面を持ちながら、揺ぎなく、思慮深く、計算高く、隙を作らない。ソラスは神ではないし、自身も古代からそのように主張してきたはずだが、権力的なふるまいから完全に降りているとは言えない。慈悲を与える民は選ぶ可能性がある。さらに、いざとなれば目的のために手段を選ばない可能性は高い。多くのものが失われると知りながらヴェイルを作り上げたように。敵ではないかもしれないが、相手にするにはかなり恐ろしい存在だ。

本編を最後までプレイすればわかるようなことではあるのだが、まったく違うロールプレイを通したことによって、「戦慄のオオカミ」と呼ばれた側面が以前より明確にとらえられた気がした。

 

 

 

 

*1:テヴィンターの賢者にエヴァナリスの誰かが含まれていたなどでない限り。今のところそれもまったくないとは言えない。かれらはそうめったなことでは死なないため。

*2:もしアンドラステの奴隷解放にもかかわっていたら、だいたい等間隔?睡眠(ウセネラ)のリズム?

*3:ソラスの言うことに偽りがない限り。

*4:同一人物を別のクラス(最初はローグ、次にメイジ)で2周やったため、ロマンス以外のロールプレイは同じだった。

Dragon Age: Inquisition プレイ記録(16) 招かれざる客 フェンハレル考

※この記事には作品の核心にかかわる重大なネタバレがあります。
※記憶違いなどによる不正確な情報が含まれる可能性があります。(コメント欄での間違い指摘歓迎ですので、ぜひ。)

 


エルヴィアンを使ってクナリたちの後を追い続けると、その先でついにフェンハレルのもとにたどり着くことになる。


そう、審問会の一員でもあった、ソラスである。

フェンハレルとはデイルズエルフの伝承に出てくる存在で、「裏切り者」「戦慄のオオカミ」として恐れられている。その名のもとにエルフの密偵たちが水面下で活動し、何らかのことをしようとしていた。クナリたちとは対立しており、かれらは審問会がフェンハレル側に加担していると考えていたようだ。
フェンハレルとはソラスのことであり、実際、審問会は知らず知らずのうちにフェンハレルに導かれていた。「スカイホールドを拠点とし、印の力で空の裂け目を塞ぐ」という審問会の役割を決定づけたきわめて重要な部分は、ソラスによって導かれたものだ。最初から審問会はフェンハレルの手のひらの上にあったと言っても言い過ぎではない。

 

スクリーンショット。やわらかな光が差し、草木が生い茂った風景。崩壊した石造りの遺跡がある。遠くにフェンハレルの像が見える。中央には杖を背負って進む審問官の後姿。

クナリを追ってたどり着いた場所。この先にフェンハレルが待っている。

審問官はヴェイルという存在の真実、そして古代エルフが滅びた本当の理由を知ることになる。審問官が必死にヴェイルの裂け目を塞いできたというのに、そもそもヴェイルなどなかった世界にソラスがヴェイルを作ってこの世とフェイドを分断したのだというのだから驚きだ*1。そして何もかも知りながら、審問会の面々が真実を解き明かすために命を懸けて活動していた中、最初からずっと知らないふりをし続けていた。
ソラスによれば、古代、「神」を名乗り腐敗したエヴァナリスに対抗するためヴェイルを作らざるを得なかった。その結果、フェイドと結びついて高度に発達していたエルフの文明は崩壊し、不老*2のエルフの長い命も失われることになったという。そして具体的に何をしようとしているのかはわからないが、今度は「我が民」を救うために今のこの世界を滅ぼすことになるらしい。過去のことは仕方なかろうが、「世界を古代の姿に戻し、かつてのエルフを取り戻す」ために今生きている者たちを滅ぼすという意味なら黙って見ているわけにはいかない。
ここでの選択肢はふたつ、「説得して止める」か「(殺してでも)敵対的に止める」かの宣言だ。正直ずっと欺かれていたうえに事件の黒幕とさえ言えるので少々腹も立ち、プレイヤーとしては後者を宣言してみたい気持ちがなくもなかったが、アトリアさんは無意味な殺生ならしない方だ。裏切りに対して感情的になるタイプでもない*3。ソラスは友人でもある。対話できないような相手ではないし、対話して別のよりよい選択肢が見つかるのならその方がいいだろう。なにより、ソラスはボードゲームも好きそうだった*4し、アトリアさんはもう少しソラスと遊びたかったはずだ。そういうわけで、ここでの選択肢は「説得」になった。

審問官の手に刻まれた印はこのままにしておけばその命を奪うことになるらしい。命をつなぎとめるため、審問官の腕は切り落とされた*5。「しばらくは持つ」というようなことを言っていたが、結局審問官は印の影響で死ぬことになるのだろうか。いや、これで助かっても自分が世界を滅ぼすので時間の問題だという宣告か。どちらにせよ不穏だ。ただしソラスは現在のエルフとは違い、めったに死なない存在なので、この「しばらく」が人間が想定するよりはるかに長い可能性もあるにはある。

 


ソラスの思惑について少し考えてみよう。
ソラスがエルフを救おうとしているのは間違いない。古代エルフの都市アーラサンが滅びたのは教会歴紀元前975年だったとされている。テヴィンターの賢者たちが滅ぼしたとされていたが、ソラスによればそれは誤りだ。となると、実際にアーラサンが滅びた時期も違っているのかもしれない。とにかく、記録通りであるならば、エルフの文明が滅びたのは作中における現代から2000年ほど前だ。それ以前のセダスにはフェイドとこちら側の世界を隔てるヴェイルというものが存在しなかったことになる。ソラスは世界をその頃の姿に戻そうとしている、とはっきり本人が言ったわけではないと記憶しているが、しかし「エルフを救い、今の世界を滅ぼす」などの発言からそのように受け取れるし、審問官が「印」を焼き付けれらた原因となったオーブの能力をみても、ヴェイルを取り払おうとしているように思える。

正確であるかどうかはわからないにせよ、約2000年前というのは今生きているものたちにとってはるか大昔のことだが、ソラスの感覚的にはそれほど遠い昔のことでないことを考慮する必要がある。非常に長命ゆえに時間の感覚が人間や今のエルフなどと異なっている上に、長期間眠っていた*6ためだ。審問会が混乱に陥ったセダスに「秩序」を取り戻そうとしたように、ソラスも自分が壊してしまった元の世界の「秩序」を取り戻そうとしているのかもしれない。
さらに考慮すべきなのは、長い眠りから目覚めたソラスが見たのは、 エルフが人間よりも低い地位の存在として厳しい暮らしを強いられている現状だったことだ。ヴェイルを作ったことでエルフの長い命を奪い、文明を奪い、アンドラステ教社会において人間に隷属を強いられる遠因が自分にあるのだとしたら、なんとかしなければならないと思うのは当然だろう。さらに、クナリたちを追っていった先で見た遺跡には、かつてフェンハレルが奴隷を導き、解放したような記述や壁画が残っていた。コーデックスで読めるデイルズの伝承においては、「彼は我らが民のことなどまったく気にかけていなかった」とあるが、それとまったく逆の記録である。ソラスは今またふたたび虐げられているエルフたちを導き、救おうとしているのかもしれない。*7

しかし、ソラスのしようとしていることがヴェイルの消失を意味するのだとしたら、その影響はセダス全域かそれ以上に及ぶ。現在、フェンハレルに加わろうとするエルフが絶えないのは、アンドラステ教社会においてエルフが厳しい立場に置かれているためだ。こうしたエルフらが教会に敵対する勢力の密偵として脅威になっているのは、教会側の身から出た錆であるとも言えるが、ヴェイルが失われれば教会に属さないアヴァーなどの少数派*8も影響は免れないだろう。ドワーフの社会も地上の社会なしには成り立たないため、影響は小さくないはずだ。魔法や精霊に対して非常に警戒心の強いクナリもだ。ソラスが実際に何を引き起こそうとしているのか分からないが、本人が「おまえたちの世界を滅ぼす」と言っている以上、大惨事は免れないのだろう。教会側にもおおいに非はあるが、世界に大惨事を引き起こすリスクのある行為なら止めるしかない。

 

信仰心を持たないとはいえ今回の審問官は教会側の社会の人間であり、魔道士として隔離されていたとはいえ一応貴族*9であるわけで、特権的な立場にあったことは否めない。それを考慮してもやはり、ソラスに対してもそこに集うエルフたちに対しても、「敵対」より「説得」でなんとかする責任があるのではないだろうか。
そしてアンドラステ教社会も大きく変化する必要がある。このような時期に教皇ヴィクトリアとしてレリアナが存在する意義は大きい。改革への意欲は他の候補ふたりとは比較にならないほど高く、魔道士に自由を与え、教会内における種族や性別による差を撤廃しようとし、対立を恐れない。「貴族らによる腐敗」が侵攻の理由にあると思われるクナリ、ソラス個人にとどまらない勢力になろうとしている「フェンハレル」支持のエルフたち、これらに対して教会の大胆な改革は絶対に必要だ。
仮にヴェイルが完全に失われてしまった場合のことを考えても、魔道士の自由を厳しく制限するより、ある程度自由な活動や研究が許されていた方が対策を練りやすいように思える。魔道士はそもそもフェイドとつながりやすいために悪魔の影響を受けやすいのだが、ヴェイルがなくなって誰もがフェイドの影響を直接受けるようになれば、魔道士を拘束して活動を制限する意味も消滅するのではないだろうか。これまで塞いできた裂け目のように、フェイドから悪魔がなだれこんでくるとするならばその対策も必要になるが、ヴェイルなき世界で魔法の探求なしにそれは難しそうだ。

 

それにしても悪魔とはなんなのだろうか、という疑問がわいてくる。ヴェイルのない世界は悪魔が闊歩する恐ろしい世界だったのだろうか。エルフの文明が高度に発達していたところを見ると、そうではないように思える。
「創造主の御子たち」というコーデックスを読むと、ヴェイルを作ったのは創造主であり、「彼は黄金の都からすべての精霊をフェイドに追い出し」た、とある。実際にはソラスがヴェイルを作り、フェイドに追い出したとしたら敵対するエヴァナリスやその加担者などだろう。教会が語る創造主の物語はほとんどが後世に作られたものだろうと思うが、おそらく一部は事実だ。だとすれば、悪魔が生まれたのはヴェイルができたあとのこと、というあたりはかなり信ぴょう性が高いのではないか。そしてフェイド自体も、ヴェイルができたあとに姿を変えたとされている。
まあ、作品内で出てきたことをもとに色々考えたところで、分からないことも多い上に次作ですべてがひっくり返るような事実や展開がある可能性もある。

 

さて、アンドラステ教社会におけるエルフ、つまりシティエルフと呼ばれるものたちがフェンハレルのもとに集っている一方、放浪の民デイルズエルフたちはどうだろうか。
伝承ではなく、現在活動中のフェンハレルについてのデイルズエルフの見解は分からない。しかしデイルズが信仰するのはかつてフェンハレルが敵対することになったエヴァナリスの面々だ。クナリを追って訪れた遺跡の記述によれば、デイルズエルフの顔の入れ墨ヴァラスリンは元来は奴隷を意味するものだったらしい。
「彼は我らが民のことなどまったく気にかけていなかった」というデイルズの伝承に対し、「奴隷たちを解放した」とされる記述が「まったく逆の記録」であると先に述べたが、これらが矛盾する記述ではあるとは限らない。
ソラスが「我が民」という言葉を使うのを印象深く記憶しているが、「我が民」が何を指すのかについて語ることはなかった。伝承にある「我らが民」がエヴァナリスに従うものたちを意味し、ソラスの言う「我が民」がフェンハレルのもとに集うエルフを意味するのであれば、狡猾で冷酷であったことと、虐げられるものを導く慈悲ある様は矛盾なく成立する。
解放を望んで自分のもとにきたものたち以外に対して、一切容赦することがなかったとするなら、まさに「戦慄のオオカミ」の名にふさわしい。審問会を見事に欺き、虐げられたエルフたちを集め、「世界を滅ぼす」と語った現在のソラスを見ても納得がいく。救済のために多くのものを犠牲にすることをいとわないのが「フェンハレル」なら、恐れられるのも無理はない。伝承が腐敗したエヴァナリス側の立場から語られたものであることを差し引いてもだ。

アンドラステ教における創造主の逸話はかなりの部分でフェンハレルと重なっている。創造主がフェンハレルを指すのだとしたら、デイルズエルフが放浪の生活をする以前にあったかつてのデイルズ王国とはつまりエヴァナリスを信仰し続けた*10エルフたちの国であり、アンドラステ教に改宗したものがシティエルフとなったというよりは、フェンハレルを信仰したエルフたちがシティエルフなのかもしれない。

現在のデイルズエルフは、たとえヴァラスリンを刻んでいたとしても、古代におけるそれとは意味合いがまったく異なる。デイルズエルフの目的は古の知識の収集と再興だが、少なくとも現在、奴隷を使役して一部の権力者が利益をむさぼる社会を復活させようというものではないはずだ。たとえばテヴィンターの奴隷制を支持するデイルズはまずいないだろう*11。アーラサンのかつてのありようは知識として失われている。信仰する「造形主」も、元々がかつてのエヴァナリスであったとしても、古代とは異なる解釈で神として再構築されているといえるだろう。 
長い時間を経て、アンドラステ教もエルフの造形主も歴史的な事実の知識が失われ、その解釈も信仰の形も、権力関係も大きく変わってしまった。そこにふたたび生身の「フェンハレル」が現れたことによって、教会もデイルズエルフも大きく揺さぶられることは間違いない。
デイルズエルフたちがアーラサンの真実について知識を得たときどのような行動に出るかは部族や個人によってかなり差が出そう*12だが、伝承によって警戒すべき存在とされてきたフェンハレルの言うことを「真実」と受け取らないものが多いかもしれない。元々デイルズエルフのすべてがアーラサンのような生活を求めているわけではないし、大昔の真実より現在の神々の解釈や生活に誇りを感じているものも多いはずだ。もちろん真実を知ってフェンハレルのもとに行くものもあるだろう。
フェンハレルに加担するにせよしないにせよ、ヴェイルが失われることはデイルズエルフにとって利益となる可能性はある。ただ、ヴェイルがなければ即古代のような魔法と長い命が手に入る、という単純なものでない可能性は高い。実際どうなるかはわからないが、多数派から追いやられる立場のエルフであっても、自身に加担しないものに対して容赦しないのが「戦慄のオオカミ」なら、デイルズエルフも人間たちと同じように災厄の危機に立たされる側にいるのかもしれない。

 

スクリーンショット。黒いフードをかぶったエルフと、目の多いおそろしげな狼の影が描かれた壁画。

フェンハレルの壁画。デイルズエルフの伝承に出てくるフェンハレルは狡猾で恐ろしい存在だが、それはエヴァナリス側からとらえた一側面だ。エヴァナリスの奴隷として扱われていたものたちを導き、解放したもうひとつの側面が伝承として語られることはない。作中でもすでに指摘されていたと記憶しているが、アンドラステ教の聖歌とデイルズの伝承は、実は同じ出来事の別の側面をとらえたもので、それが長い年月の中でそれぞれに変化していったものである可能性はきわめて高い。



信仰心を持たないアトリアさんとしては、信仰の自由についても誰か少しくらい考えていてほしいのだが、なかなか話として出てくることがない。多様性を尊重する傾向の教皇ヴィクトリアも、なにしろ教皇なので信仰にも自由をと大っぴらに言うかはわからない*13。ただ、アヴァーなどとの親交もあり、これまでよりは多少異教に寛容になっていくかもしれない。反発も大きいだろうが……。まあ、それ以前に、歴史的新事実に関することで教会はかなり揉めるだろう*14

 

ところで、ここでアイアン・ブルを引きとめるために審問官が何気なく話していた魔法の知識を思い出してみよう。

「ヴェイルは厳密に言えば物理的な障壁ではない。フェイドに反発する魔法の振動のようなものだ」

「フェイドとこの世の間に巨大な壁を瞬時に作った」と考えるとまさしく「神の所業」なのだが、「フェイドに反発する魔法の振動とやらをなんらかの装置で発生させている」と考えると、神がかった印象は薄くなる。各地に設置されていたあの装置、ソラスに頼まれて審問官が起動したあの装置がその振動を発生させるのに関連したものだとしたら……かなり地道に計画的に実行されたことだったのかもしれない。そして審問官にあの装置を起動させた本当の意味はなんだったのだろうか。「ヴェイルの測定」という名目で起動していたと記憶しているが、その説明が真実だったのか不明だ。実際測定に必要なものだったとしても、ソラスがこれからやろうとしていることの下準備をさせられていたような気がする*15

また、約2000年の間存在してきたと思われるヴェイルだが、そもそも人為的に作られたものであり、人間以外の世界の歴史としてみれば2000年はそれほど長い期間でもない。ソラスを阻止したとしてもずっと存在できるものとも限らない。世界にとってはおそらくかなり不自然な状態であり、そのまま存在させておけば別の問題が蓄積し、どっちみち世界の危機という可能性も考えられるのではないか。これからセダスも、セダスの外の世界*16も、どうなっていくのだろうか。

 

 

musinju73.hatenablog.com

 

*1:プレイヤーは3周目なので驚かなかった。

*2:不死ではない。

*3:他人への期待がきわめて低い。

*4:アイアン・ブルとソラスを一緒に連れていると頻繁に会話でチェスらしきことをしている。ふたりとも脳内盤面があるのか。これなら目隠し碁も余裕だ。

*5:ソラスが腕を切断したように見えたが、その場面ではまだつながっているようにも見え、どうも描写が分かりづらい。身体の切断描写を避けたためだろうか。今回はXbox One Sでプレイしているのだが、PC版だと違ったりするのだろうか。

*6:ウセネラ。古代エルフには肉体的な老いはなかったが、生きることに疲れると数百年の長い眠りについたとされる。そのまま目覚めず衰えて死ぬこともあったという。ソラスがどの程度の期間眠っていたかは不明だが、目覚めたのは審問会に参加する1年ほど前らしい。アンドラステの奴隷解放の時期にも活動していた可能性が高いため、アーラサンが滅びてからずっと眠っていたわけではなさそうだ。

*7:ソラスとのロマンスを経ていればもう少し情報が引き出せたかもしれないし、心情ももっと推測しやすいかもしれない。

*8:名前のみでほとんどその実態が作中に描かれていないが、コーカリ荒野にはチェイスンドの人々もいる。荒野の魔女、つまりミサールと関わりが深いはずだが…

*9:貴族の出身だとサークルでもある程度優遇されるらしい。

*10:とはいえこの時点で古代アーラサンの知識は失われていた可能性が高い。

*11:カウンター的に人間を奴隷にしてやりたいと考えるものたちはいるかもしれない。人間に対しかなり敵対的なデイルズエルフは少なくない。デイルズ審問官の出身部族ラヴェランが人間に虐殺される展開が存在するくらいだ。それくらいの敵対心があってもなんら不思議ではない。

*12:一部の伝承者はある程度真実を知っているのでは?

*13:レリアナはかつてOriginsでデイルズエルフに対しても創造主に感謝してしまい、モリガンに「そこは造形主に感謝するべきでは」とかつっこまれていたような記憶がある。うろ覚えなので不確か。

*14:そもそも審問官の得た情報、どこまで公開できるんだろうか。

*15:アンダースがホークに何も言わず爆破の下準備をさせたことを彷彿とさせる。

*16:セダス以外の地域のことがさっぱりわからないが、たぶんもっと別の地域もあるだろうと思う。ヴェイルの影響は地域限定なのか、全世界なのか、わからない。ソラスは全能の神というわけではないし、セダスが世界のごく一部の地域に過ぎないとしたら、「魔法の振動」が全世界に影響するというのは考えづらい。

Dragon Age: Inquisition プレイ記録(15)招かれざる客 -クナリの侵攻-

※この記事には重大なネタバレが含まれます。

 

審問会がそのあり方を問われている中、事態は新たな局面を迎える。会議の途中でクナリの侵攻計画が明らかになり、さらにフェンハレルの密偵が何かを企てていることも明らかになるのだ。ここで審問会は問題の解明のために動くが、クナリの密偵の死体を隠したりなど、議会にその動きを悟らせないようにしたため「信頼できない組織」感は一層強まってしまう。*1

 

スクリーンショット。レリアナやカレンの前で必死に訴えるジョゼフィーヌ。

密偵のことではありません!クナリ族の死体を隠しましたね。あなた方はウインターパレスを支配しているようなものです!」と訴えるジョゼフィーヌ。外交を彼女にほとんど丸投げしていることも審問会の大きな問題のひとつではある。

 

審問会は混沌の中で真相を探し出し、問題を解決するために立ち上げられた組織だ。講和会議での爆発事件、魔道士とテンプル騎士の泥沼の対立、ヴェナトリの暗躍やグレイ・ウォーデンの異変、その背後にあるコリーフィウスという脅威、それらの事実を解き明かして対処し、各地のヴェイルの裂け目を塞いできた。その過程で審問官は「裁判」という形で人を裁くことにもなった。
しかし、それらが本当に「公正」なものだったかというと、そうではないだろう。審問会は完全に閉じられた組織だったわけではない。少なくとも各地域、外部の組織とのやりとりはかなりあった。しかし、ほとんどのことは顧問ら数人の話し合いで決められ、裁判に至っては審問官個人の裁量で判決が下されていた。明確なルールが存在するわけでもない。選択肢の限られた危機的な混沌の中においては必要なことだったかもしれないが、強大な影響力と武力を持ちながらそのままの形を続けていけば、さらに危険な組織になり果てるだろう。
たとえ審問官が「公正」な人物であったとしても、権力を持ちながら変わらずに居続ける保証もなければ、審問官がいなくなったときに別の人間が同じ席に着き、同じように「公正」であり続ける保証もない。もちろんこれらは審問会特有の問題点というわけではなく、あらゆる団体、組織、国家に言えることでもあるのだが、明文化されたルールを作った様子が見られないのは審問会の大きな問題点だ。

 

スクリーンショット。ジョゼフィーヌの後姿と、ジョゼフィーヌに向かって話すティーガン伯爵。

「秘密と嘘か。あなた方はなぜ我々が審問会を恐れているか、理解しているのか?」と話すティーガン伯爵。12年ほど前のブライトのときにはレッドクリフでウォーデンのよき味方となった。今回はフェレルデンの代表として登場し、審問会に対しては不信の態度を示す。審問会は秘密裏の活動も多く、透明性のある組織とは言えない。信用されないのも無理はない。

 

スクリーンショット。ティーガンの後姿と、テーブルをはさんだ向こう側に立っている審問官。

審問官に対し「まるで自分達が、すべての問題の答えであるかのように振る舞う。今度はいつ戦争に我々を巻き込むつもりだ?」と語りかけるティーガン伯爵。個人に依存した組織は独善と隣り合わせだ。

 

 

クナリの動向を追っていくと爆薬の生産に使われているドラゴンのもとにたどりつくが、恐ろしいことに条件によってはここでアイアン・ブルがクナリ側につくことになる。たとえ審問官がパートナーであってもだ*2。今回はこちらを裏切ることはないが、ブルの立場にしてみればどちらにしろ何かを裏切ることになってしまう。このあたりの葛藤はこのDLCでは見られないが、突撃兵を助けるかクナリの同胞を助けるかの選択を迫られたあのとき、審問官に背中を押されたことによってすでに吹っ切れているのかもしれない。

 

スクリーンショット。石造りのダンジョンに杖を背負ってたたずむ審問官。パーティーメンバーのアイコンが表示されていて、発言しているのがアイアン・ブルであることがわかる。そのほかにはカサンドラとセラがパーティとして同行している。

「ザ・アイアン・ブルは大丈夫だ。これが終わったら酒に付き合って貰うぞ。たっぷりとな」と話すアイアン・ブル。

 

ドラゴン・アターシはクナリの計画のためにすでにかなり痛めつけられた状態で、倒す他に逃す選択をとることもできる*3。これまでドラゴンといえば殺す一択だった*4ので、ここで逃す選択肢をとれるのはありがたい。アトリアさんに慈悲はないかもしれないが無用な殺生はしない。人間以外ならなおさらだ。とはいえそこが人里ならドラゴンを逃すのにも問題はあるだろう。エルヴィアンで移動していたのでダヴァラードが具体的にどのあたりなのかまったく分からなかったが、集落などがありそうな雰囲気ではなかった。その後のアターシが元気にしていることを願いたい。*5

 

クナリは計画のために苦痛を与えるやり方でドラゴンを利用しようし、それをアンドラステ教会側の審問官が阻止してドラゴンを逃がすという構図になった*6が、キュンの教えがアンドラステ教会*7と比較してとりわけ残虐かというと、そういうわけではない。
キュンについての情報は十分とは言えないものの、コーデックスやThe World of Thedasにある記述である程度知ることができる。キュンは非常に厳格に規律を重んじ、自由を制限する傾向にあるが、それらは全体の安定、秩序、平等な社会の実現のためだ。キュンは、常に誰かを犠牲にして成り立っている不平等な社会への絶望から生まれた哲学*8なのだ。南部に侵攻しようとしているのも、アイアン・ブルによれば「悪の貴族から人々を救う」のが理由のひとつではないかとしている。

 

スクリーンショット。石造りのダンジョンに立つ審問官と武器や防具を装備した仲間たち。メンバーはひとつ前の画像と同じ。

「俺達は南部の腐敗を語っている。悪の貴族を倒して人々を救おうとする奴が出てもおかしくないだろう?」と話すアイアン・ブル。



アターシがいる部屋の前にあった日誌によれば調教師はドラゴンを痛めつけていることに苦痛を感じており、「キュンの文節を何度も繰り返している」「私はこんなことの為にキュンに加わったのではない」と書かれている。キュンの文節に他者(動物)に対する倫理的配慮に関することが書かれているのかどうかは定かではないが、少なくとも無用に残虐なものでないことは間違いない。しかし、キュンは全体の秩序のために拷問のような手段も辞さない傾向にある。
一方アンドラステ教社会に拷問が存在しないかといえば、まずそんなことはない。間違いなく、表立っていないだけに過ぎない。またクナリの社会に比べて自由があるかといえばそういうわけでもない。アイアン・ブルも語っていたが、自身の道を自分で自由に選べるものはアンドラステ教社会であっても少数派で、社会の仕組みや文化に違いはあっても庶民の暮らしにそれほど大きな差があるわけではない。

この調教師はおそらく一般的にクナリとみなされる角のある種族・コシスではない、キュンに従う人間とエルフのようだが、とにかくドラゴンを痛めつけるのは不本意だったようだ。生まれたときからキュンのもとで生きているものなら「全体の利益のために」滅私に徹するところかもしれないが、改宗者にとってはかなり苦しいものであったらしい。しかし生まれたときからクナリであり、あの屈強なアイアン・ブルでさえ、かつての戦場ではひどく苦しみ、自ら「再教育」を受けたのだという。クナリ(コシス)がとりわけ残虐なわけでも感情がないわけでもない。また人間がそうであるように、個人差も大きい。かれらは特別に異質な存在というわけでもないのだ。

 

 

クナリの社会は拷問のような「再教育」などおそろしい一面もあるが、おそらく役割さえ果たせれば少なくとも迫害されることはなく、そのためアンドラステ教社会で冷遇されるエルフがキュンに従っているケースがそれなりにあるようだ。もちろんそれは「同化して役割を果たせば受け入れる」ということに過ぎず、自由を意味するわけではない。一方のアンドラステ教の社会では改宗を条件として異民族地区にエルフを住まわせ、しかし明らかに人間より低い待遇しか受けられないという「同化を強要するのに同化したところで結局差別する」状況にあるが、それよりは対等に扱われるのかもしれない。ただしクナリの役割分担は自分の意思で自由に決められるようなものではなく、先述の調教師のように自分のしていることに苦しんだり、不本意な役割しか与えられないこともあるだろう*9。クナリの方がすべてのエルフにとって平等な社会だ、と言えるかは分からない。

 

ちなみにアンドラステ教会よりはるかに厳格に拘束される魔道士にとっては恐ろしい社会だろう。クナリの魔道士が自らキュンに従う描写など、「全体のために役割をまっとうするのがなによりも尊い」社会に適合している様子もうかがえるが、それ以外の選択肢がないため、生きるにはそうなるしかない。あるいはキュンから逃れ、タル・ヴァショスとして生きるかだ。
合理的で理性的な部分には共感できそうなアトリアさんだが、何からも自由でありたい魔道士として、キュンのもとでは生きられないだろう。

 

 

スクリーンショット。ほとんどが崩れている石造りの遺跡に立つ審問官と仲間たち。パーティーメンバーとしてアイアン・ブル、カサンドラ、コールが同行している。

「これが終わったら、また誰かに棒で叩いて欲しいね」と話すアイアン・ブル。このあとカサンドラにはすかさず断られていた。以前は十分に要望に応えることができなかったので、今度はアトリアさんが全力で叩いてくれるだろう。魔法の棒で。

 

さらにクナリの後を追い、審問官らはついにフェンハレルのもとにたどり着くことになるが—— 続きはまた次回に。

 

 

*1:しかも、フェンハレルは実のところ審問会の内部にいたのだから、これは非常に都合が悪い。

*2:審問官が突撃兵ではなくクナリとしての任務をまっとうせよと背中を押した場合の結果だから当たり前なのだが。

*3:またプレイする時のためのメモとして書いておくが、アターシを出口側に誘導するために動かす装置は荷台で塞がっていて一定以上は動かない。この荷台は審問官の印の能力でしか破壊することができないようだ。どう考えてもただの木の荷台なのに武器で殴ったり燃やしたりしても壊れないのは不自然だが、クナリのなんか… すごい技術によるとてつもなく丈夫な荷台なのかもしれない。

*4:本編の各地のドラゴンにあえてなにもしないという選択はできるが、殺さず遠ざけるような選択肢も欲しかった。敵対しない熊のいる「ハコンの顎」といい、DLCでは熊やドラゴンを殺さない選択がとれるのがうれしい。敵対するしかなかった本編に対しての問題意識が存在するということだと思うので、次作にそれらが反映されるといいなと思う。

*5:一応十分に体力を残した状態でドラゴンを解放したが、そもそも痛めつけられて弱っていたため、ただ逃すのは苦しみを長引かせるだけでは?という気もするが…

*6:アトリアさんは神など信じないので不本意だろうが、どう頑張っても審問会が中立ではなく教会側にある事実はひっくり返せない。

*7:単に教会(chantry)と呼ばれることが大半だが、分かりやすくアンドラステ教と書いておく。

*8:The World of Thedas Vol.1 127pより。

*9:目的を果たすことが重要なので、明らかに向いていない役割を与えられるということもないと思うが。非常に向いているが非常に拒絶している場合などはどうなるのだろうか。あの調教師は役割を拒絶したらどういう処分を受けただろうか。「再教育」が待っているかもしれない。