無真獣の巣穴

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Dragon Age Inquisition プレイ記録⑩ ロマンス完結編「アイアン・ブル」アトリアさんの視点から

※この記事には重大なネタバレが含まれます。

※台詞はうろ覚えのため、正確ではない可能性があります。

 

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前回はアイアン・ブルの人物像について書いた。クナリについてはまだ分からないことが多いが、情報を集めてみるとその考え方がおおまかにつかめてくる。


アイアン・ブルは一見すると激しい戦闘が好きなだけの単純で豪快なタイプに思える。しかしそう思わせておいて相手の警戒を解き、実は冷静に思考を巡らせながら物事を観察し、相手の心を操り、事細かに情報を探っている…と考えると本当に恐ろしい人物でもある。本人が密偵であると言ってくれなければ誰も気づかないだろう*1

アイアン・ブルは激しさと冷静さ、残虐さとやさしさ、荒々しさと繊細さなど、相反する要素を多く持ち、怒りを抑制しながら利用することで自らの役割に徹してきた。同胞から遠く離れたところでの生活が長かったとはいえ、キュンが指針となることでバランスが保たれていたとするならば、そのつながりを失ってしまった今、アイアン・ブルの支えは審問会になるのだろうか。あるいは突撃兵の仲間たち、もしくは審問官個人だろうか。少なくとも、大きな目的や役割を失わない限りは安定を保てそうに思える。

 

Originsのスタンは自らがキュンの要求に反してしまったことに取り乱し、我を忘れて農民たちを殺してしまった。最初にプレイした頃はまったく意味のわからない行動に思えたが、クナリについての知識が多少増えた今なら理解できなくはない。キュンのもとに生まれたクナリにとってキュンは明確で絶対的な指針なのであって、そこから逸脱してしまったと思ったとき、強く掴んでいてくれた手を急に離されたかのように、著しく不安定になったのだろう。安定を取り戻したのは、ブライトに立ち向かうという目的と役割が与えられたからだ。


こういったことはなにもクナリ特有のことではなく、クナリほど強固ではないにせよアンドラステ教徒も信仰が強い支えになっている場合は多い。強力な支えほどそれが揺らいだときのダメージは大きく、目的や役割を失うことはときに不安定さをもたらす。一方で、クナリにせよアンドラステ教徒にせよ、普通に生活している分にはたいして変わらない人々であり、そこまで信仰を意識していないものもかなり多いはずだ。そして、中には教えに疑問を持ったり内心反発しているものも必ずいる。今回の審問官がそうだ。

 

 

アトリアさんは反アンドラステ教会の立場だ。反乱には加わっていないが、アトリアさんにとって教会は心の支えなどではなく、自分を抑圧するだけの忌々しい存在に他ならない。あれだけ反乱が燃え上がったところを見ても、教会に対して不満を抱いている魔道士はかなり多かったのだろう。

テヴィンターを除く教会にとって、魔法は使用を制限し厳しく管理すべき危険なものだが、アトリアさんにとってはそうではない。しかしテヴィンターのように魔法が優遇され、魔道士のみが支配階級になることも望んではいない。アトリアさんにとって魔法はただそこにあるもので、自分の身体の機能のひとつにすぎない。もちろん、使い方を知りコントロールすることは必要だが、そのために死ぬまで自由を奪われることに納得などいくはずがない。

 


ちなみにクナリは魔法を極端におそれ、魔道士を非常に厳格に管理している。その苛烈さはアンドラステ教会の比ではない。Dragon Age 2に登場する、口を縫い合わせられたサレバスの姿はかなり衝撃的なものだった。魔法と感情は密接につながっているが、魔法の力を持つものは感情を自力で制御することができないと見なされている。キュンは滅私を求めているのだ。

アイアン・ブルはというと、悪魔をおそれてはいるが、魔道士自体におそれや憎しみを持っているようには思えない。突撃兵にも魔道士を受け入れており、この時点でやはり他のクナリとは異質な考え方を持っているように思う。ドリアンがアイアン・ブルに「自分もひどい目にあわされるのか?」というようなことを尋ねたとき、「子供のいる家に火をつけたことがあるか?」とブルが応え、ドリアンが「ない」と言うと、ブルは「ちゃんと相手は選ぶ」というようなことを言っていた。余談だが、このときアトリアさんの「前世の記憶*2」が少し疼いたかもしれない。とにかく、ブルは行為に対しては怒りを抱くが、属性のみで判断することはないのだろう。

 


教会のやり方に反対することと、信仰心を持たないこととはイコールではない。強い信仰を持ちながら現在の教会に反対することは矛盾なくできるし、現在知られている教えや歴史の記述すべてが正しいわけではない、とする立場もある。教会から離反したテンプル騎士も、反乱を起こした魔道士も、信仰自体を失ったわけではない。審問会にも色々な人々が集まっているが、どのような意見を持っているにせよ、アンドラステや創造主への信仰自体を拒絶しているものはそう多くはない。

アトリアさんは信仰そのものを拒絶する。信仰より事実に重きをおくからだ。自分に与えられた理不尽は押し付けられた教えに疑問を抱きやすくし、教会にかかわりの深い家柄であることは反発を招きやすくする。さらに魔法の訓練のあとは研究に没頭するしかやることがない*3となれば、信仰よりは事実を求めたくなるだろう。アトリアさんは「魔法」を特別な存在だとは考えない。また、「役に立つこと」や「崇高な使命」に価値を見出さない。信仰や使命をよりどころにすることとは対極にある生き方と言えるだろう。アトリアさんは自分の意思で自分の行き先を決め、決まった目的を持たず、誰かの役に立つためでもなく、好奇心のおもむくまま生きることで安定するのだ*4。教会ともキュンともずいぶん相性が悪そうだ。


このスタンスで審問官を務めるのはかなりやりづらい。アンドラステの使徒と呼ばれることを否定すると「謙虚」と受け取られることもあるが、そうではない。勝手に信じてもいないものの使徒にされ、事実と異なる物語にされるのはごめんだと言いたいのだ。この苦悩は異教徒である前周のデイリッシュ審問官でも同様だった。

ちなみにアダマントでフェイドに入ったときは「アンドラステに遣わされたと思っていたが…」というロールプレイ完全無視の台詞を言わされてしまい、中の人はかなり悲しかった。

 

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↑アトリアさんはそんなこと言わない。


カサンドラはこちらが魔道士だからか、このような考え方を持っていることに対して「理解はできる」と言ってくれるが、それでも「アンドラステあるいは創造主によって遣わされた存在だ」とは考えているようだ。程度の差はあれアンドラステや創造主を信じるものは大抵そう考えているようで、だからこそ審問会にこうして人が集まってくれたのだろうが、アトリアさんとしては不本意だろう。魔道士だからというだけで自分を不当に縛る信仰が、さらに審問官という役割を勝手に押し付け、自由を奪う。そして皆それを信じ、団結し、それに見合った働きを期待している。それでも目の前の危機に対処できるものが自分しかいない以上、問題をなんとかするために最大限の努力はしているが、かなり居心地は悪いはずだ。

このような負担の中で、信仰抜きに審問官を見てくれる仲間といえば、コール、ソラス、アイアン・ブルくらいだろうか。ヴァリックもこちらを使徒でなく人間として見ようとはしてくれているが、なんだかんだ実は信仰を持っているようだ。ソラスは別の意味で完全に心を許すのが難しいところがある。コール*5は信頼できるが心を通わすには異質な存在だ。モリガンの考え方はアトリアさんと共通するところがやや多いように思うが、Inquisitionにおいては親しくなれるような間柄ではなかった。

となると、完全に信仰抜きで心を許せるのは結局アイアン・ブルしかいなかったのではないか。傾向は正反対というほどに違うのだが、教会とはまったく違うバックボーンを持ち、なおかつキュンからも離れざるを得なかったブルは、勝手に信仰に絡めとられて疲れぎみの背教者にとって、ある意味もっとも親しみやすい存在かもしれない。なおかつブルの方も審問官の重圧を和らげようとしてくれるため、まさに求めているものを与えてくれる存在でもある。

 

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↑セーフワードは自分たちで話し合って決めるものだったらしい。いいことだ。その他のルールについて真面目に話し合う場面があってもよかった。


完全に消去法でロマンスの相手としてアイアン・ブルを選んだが、結果的にセクシャリティにおいても境遇においても、精神的なよりどころとしても、本当に唯一無二の相手だったかもしれない。肉体関係とはまた別のところでまさにデミロマンティックな関係を築くことができた気がする。また、説明のタイミングこそ気になったが、ルールのあるシステマティックな性的関係もかなりよかったと思う。

 


中の人としてはカサンドラのこともやっぱり諦めきれないところはあったが、性別抜きにしても今回の主人公はカサンドラと深い仲にはなれなかっただろう。セラとも厳しかったかもしれない。結局アイアン・ブルを選んで本当によかった。間違いなく今回最良の選択だった。

 

 


…というわけでロマンスについてはこれまで。ちょっと長々書きすぎたような気がする。果たしてプレイ記録は最後まで続くのか。ちなみに中の人は記事を書きすぎて最近ゲームをしていない。

 

 

 

*1:我らがスパイマスターレリアナといい勝負できそうだが、ブルがどこか非情になりきれなさを持ってるのに対し、レリアナは慈愛か冷徹かに振り切れてしまう極端さがずば抜けている。まあ突撃兵を見捨てた場合はブルも審問官よりキュンを選ぶわけだが、クナリは本来それがデフォルトである。…何の勝負だ。

*2:例によってTES4でのことだが、デイドラの秘宝を得るためにとある人物を殺害せねばならず、暗殺が苦手だったアトリアさんはわざとモンスターに追われて村に突っ込み、モンスターに襲わせてターゲットを殺害した。結果村のほとんどの住民が巻き添えになって死んだ。さすがのアトリアさんもあのときは少ない良心が痛み、それ以降なるべく犠牲者を出さない冒険を心がけたのであった。

*3:ヴィヴィエンヌのようなあり方はまれなはずだ。

*4:この作品に召喚するべき主人公ではなかった気がする。

*5:今回は精霊に近くなっている。アトリアさんは人間に近いことがそれほどいいことだとは考えていない。

Dragon Age Inquisition プレイ記録⑨ 続々・ロマンス「アイアン・ブル」人物像について

※この記事にはネタバレが含まれます。

 


引き続きアイアン・ブルとのロマンスについて。前回は思わぬ展開に中の人がカッとなってしまった。しかし本当にあの場面はいらないと思う*1

 


気を取り直そう。とにかくアイアン・ブルにドラゴンの歯のネックレスを渡し、「まれな」関係になることができたようだ。そして「カダン」と呼んでくれるようになる。「愛しい人」の意味だそうだ。自分の記憶によればその言葉には親愛の意味は込められているが、恋人のみに使うものではなかったような気がする。何度か使われている場面があったはずだ。そもそも恋愛というものがおそらくクナリに存在しないため、恋人専用の呼びかけの言葉がなかったりするのだろうか。というか、そういえば英語の「my love」なども別に恋人にだけ限定して使われる呼びかけではないのだった。この場合クナリが特別なのではなく、日本語にこれに相当する言葉がないということか。

 

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アイアン・ブルとはどんな人物だったか。それは「クナリ」を理解しなければ難しい。

今までクナリ、クナリと呼んできたが、厳密には「クナリ」とはキュンに従うもののことを指し、種族を指しているわけではない。アイアン・ブルのように角のある大柄な種族には「コシス」という名称があるようだが、実際当事者もあまり使っていないし、やはりクナリと呼ぶのが一般的だ。Originsのスタンには角がないように、コシスに必ず角があるというわけではなく、また角がないからといって扱いが変わったりするということもこれまで見た限りはなかったように思う*2。クナリにとって種族としての見た目の特徴はそれほど重要ではないのかもしれない。実際、種族にこだわりがあるわけではないようで、キュンにさえ従えばかれらはエルフでも人間でも受け入れる*3。特にテヴィンターで奴隷として扱われるエルフには、役割に従えば平等に受け入れてくれるキュンは魅力的に映るようだ。ただし選択的な交配が行われているところを見ても身体機能はおそらくかなり重視されている。

 

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↑タマスレンがコシスとドラゴンを交配した… という迷信の話。さすがにそんなことは… しかしクナリの科学は結構進んでいるらしいぞ。いやしかし。

 


今回のアイアン・ブルはキュンから離反させてしまったので、厳密に言えばクナリではないことになる*4。彼はいまやタル・ヴァショスだ。

ブルはタル・ヴァショスを強く嫌っている。キュンに従うクナリなら一般的に皆そうだが、彼の場合それはセヘロンでの体験によるところが大きいようだ。セヘロン島はテヴィンターとクナリが激しい戦いを繰り広げている地域で、さらにタル・ヴァショスや原住民の反乱軍も加わって泥沼の様相となっている。そこでの活動は長くて2年が限界だと考えられていたようだが、ブルはベン・ハスラスとして10年近くも活動していた。そこで見たタル・ヴァショスは残忍であり、かれらは子供たちやブルの部下、さらに長年の友人を殺した。最悪の事態を目にしたとき、彼は怒りで我を忘れてしまった。そしてそれを危険視し、自ら「再教育」を受けたのだという。

クナリはキュンに従いさえすればどんなものでも基本的に殺しはしない。たとえ囚人であってもだ。しかし従わないものは「再教育」を受けることになる。これは拷問による洗脳に近い。またかれらは薬物を使って精神を破壊することもある。それを自ら受けに行ったのだから、ブルの怒りがどれだけ激しく、抑えるのが難しく、その途方もない怒りを自ら恐れていたかが分かる。

彼は民間人を殺すのを嫌い、セヘロンの原住民とも親しくていたようだ。審問官と一緒に戦っているときの台詞からは難民を傷つけるものを憎んでいることがわかるし、貴族がまともな統治をしないために貧しいものが盗賊をやるしかないことに理解を示したりする。そしてキュンに従わず山賊として民間人を殺すタル・ヴァショスを強く嫌っている。セヘロンでの光景を思い出すのだろう。

ちなみにセヘロンにいた頃の名前は「ヒスラッド」で、それは「幻想を生み出す者」や 「嘘つき」を意味するらしい。彼は見た目からは想像もつかないほど観察力が鋭く、嘘をつく能力に長けているから、だそうだ。まさに密偵向きと言える。クナリは固有の名前を持たず、特徴や役割を表す名前で呼ばれるため、役割が変われば名前も変わる。「アイアン・ブル」はタル・ヴァショスを装って活動するために自らがつけた名前だそうだ。

タル・ヴァショスを嫌うブルがタル・ヴァショスになってしまったのは不本意だろうが、クナリはキュンに従わないものを許しはしない。元々ブルは忠実にルールに従う性質ではなかったらしい上に、一度は我を忘れて暴走している。クナリを見捨てて突撃兵を生かしたことが決定打になり、離反したと見なされたのだろう。しかし、だからといってアイアン・ブルからキュンが突然消えるわけではない。やはり行動のあらゆるところにキュンの考え方が存在している。

 


キュンはなかなか理解の難しいものではあるが、個ではなく全体を重要視しているのは確かだ。「全体を一個の生き物として考えている」という例えは非常にわかりやすい。キュンに従う人々は全体にとっての手足のようなものだ。かれらはすべてのものに価値があると考えているが、それは「手足として」であって、それぞれの個を尊重することはない。クナリという全体が一個の生き物であり、手足はそのために動くことを求められている。そこから勝手に離れたり「魂」である司祭職*5を無視した行動を取ることは許されない。「再教育」は手足としての機能を取り戻すための「治療」である。クナリはどんなことをしたものであれ簡単に処刑したりはしないようだが、それはおそらく自らの手足をやすやすと切り落とさないのと同じことだ。使い道のある限り、切り捨てはしないのだろう。キュンはすべてのものに役割を与える。キュンに従うものは注意深く観察され、もっとも適切と思われる役職を与えられる。おそらく当人が強く拒絶しているようなことをさせたりはしないだろう。強く拒絶している時点で「適切」ではないからだ。ただ求められるのは、「全体のために」なんらかの働きをすることだけだ*6

キュンはクナリ以外の奴隷や農民などの貧民に一定の需要があるようだが、役割さえ果たせば平等が得られるのは、やはり理不尽な労働を強いられているものにとっては魅力的だろう。そこには秩序があり、安定があり、種族や見た目で判断されることもなく、自分に見合った仕事を与えられ、それさえ果たせばひどい扱いを受けることはない。戦いに向かないものを戦いに行かせることもおそらくない。しかし徹底した全体主義と合理主義であり、そこから逸脱すれば生きてはいけない。たとえば、指示を無視して自分の保身のために行動したり、全体より仲間を優先して助けてしまったり、だ。クナリが個人同士での深い関係を結ばない理由がなんとなく分かってくる。

クナリには血の繋がりによる家族は存在しない。生殖はタマスレンによって管理されている。生まれた子供は集められ、タマスレンが育てる。自分が誰の子供かを知ることはないのだそうだ。タマスレンは教師でもあり、クナリの価値観を徹底的に教育し、そして注意深く観察してどのような役割に当てるべきかを見る。このようなシステムである以上、恋愛や結婚は存在のしようがなさそうに思える。それでも伝統としてドラゴンの歯の話がある以上、やはり個人間の深い感情がまったくないわけでもないのだろう*7。しかしそれは我々が知っているような恋愛感情ではないだろうし*8、そもそも恋愛というもの自体、大部分は文化によって形成された価値観なのだ。そして個人同士の深い関係がどれだけ強かろうと、クナリにおいてはキュンが一番に優先されなければならないのは間違いないだろう。よって、タル・ヴァショスにならない場合のアイアン・ブルとどれだけ関係を深めたとしても、彼は最終的にはキュンを優先するのだ。

 

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↑ベン・ハスラスの技能のひとつとして、マインドコントロールのようなものがあり、それを審問官との性行為に使っているらしいのだが、拘束プレイの一貫として使っているのかと思っていたらなんだか苦悩を忘れさせるために使っているぽくてやさしいのだった。


アイアン・ブルとの肉体関係は、最初の段階では深い精神的つながりがなく、「性的なアトラクション」を提供しているようなものだと以前に書いた。それについて対価を求められなかったのは、こちらが居場所を提供しているからだろうか、と思ったのだが、しかしそれがキュンの考えに基づいた行動だと考えると理解できるような気がする。つまり、審問会や審問官は世界にとって必要な存在で、審問官が求める癒しをブルは与えたのであり、必要な役割を果たしただけにすぎないのだ。審問会の他のものにもそれを提供しているのは、かれらが審問会のために仕事をする中でストレスをためていて、その疲れを審問会のために癒した、それだけだ。審問官と関係を持つ間に他のものと関係を持たないのは、それが審問官の求めることだからだろう*9。そもそも、クナリは人間社会にあるような通貨を持っていないらしい。クナリが一個の生き物だとすると、栄養は適切なところに適切な分だけ送る。対価を持っているものに多くを与えるなどあり得ないことだろう。

もちろんブルの個人的好みや快楽がまったく存在しないわけではないし、彼は酒が好きだし赤毛が好きだという嗜好を持っていることも間違いない。必要だからという理由で結局自分の欲求を満たしている側面がないとは言えないだろう。しかしそれでもやはり奉仕として機能する限りで快楽を自分に許しているのであって、間違っても享楽主義ではない。

 


アイアン・ブルのこのような「奉仕」の姿勢はキュンの考え方からきていることは間違いないが、ブルの個性がまったく関係ないわけではない。彼は子供の頃からまわりへの気配りを欠かさず、体調の悪いものがあればすぐに気づいて報告していたらしい。まるで保護者であるかのように。突撃兵に対してもひとりひとりに気を配っているのがよく分かるし、皆の意見をよく聞いている。審問官の一押しさえあれば、キュンに背いて自らの部下を守りさえするのだ。

実のところ、アイアン・ブルの個性はキュンとは相性があまりよくないように思える。彼は子供の頃から、問題解決のためにルールから逸脱することがあったようだ。セヘロンでは仲間や子供たちのために我を失って命令を無視している。おそらく、ブルは全体の利益やルールに必ずしも忠実ではなく、個を尊重する傾向にある。そしてだからこそセヘロンの地元住民にさえ親しまれ、はみ出しものを集めた突撃兵のよき指揮官であり、その凶暴そうな見た目にかかわらずネヴァラやオーレイでも人気を得てきた。その一方で密偵として報告を欠かさない実直さがある。そんな面がタル・ヴァショスを装ったベン・ハスラスとしては有用だったのだろうが、やはり危険視されてもいたからこそ、その役割を与えられていた。アイアン・ブルのパーソナリティはキュンによって形作られながら、根本的にはキュンの下で生きるのが難しい、クナリの「変わり者」なのかもしれない。

 

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↑心配りの塊。

 

 

今回はアイアン・ブルという人物について考えてみた。コーデックスや会話、The World of Thedasに書いてあることを参考にして推測交えてまとめてみた感じだが、取得していないコーデックスも多いし、会話は記録がなくてうろ覚えのことも多い。The World of Thedasについてはほぼ機械翻訳に頼っているため誤訳や翻訳抜けで正しく読めていない可能性がある。不正確な点があるかもしれないことをご了承願いたい。

 

 

ここらへんでロマンスについては終わりにしたいと考えていたのだが、……まだ書くことがある!次回をお楽しみに(してる人いるのか?)。

 

 

 

 

*1:まあしかし今回のプレイに限っては、カサンドラに本気かどうか問われるのは展開としては自然だったかもしれない。なにしろ散々カサンドラを誘惑して振られた直後にブルと寝てるのだから。もちろんアトリアさんの誘惑は冗談などではなく、全部本気である。まあ、恋愛感情という意味の本気ではないと思うが…。

*2:正直OriginsからDA2までの間にクナリの設定が若干変わったのではという気も。ただしクナリのブルードマザーから産まれるとされているオーガには初登場時から角がある。

*3:ブルの話を聞いていると、おそらくトランスジェンダーでもキュンに従いさえすれば受け入れられるようだが……性役割がかなり強固そうなのがネック。

*4:キャラメイクではクナリの主人公も作れるが、説明を見る限りタル・ヴァショスという設定であるため、やはり厳密に言えばクナリではないのだろう。

*5:DA2に出てきたアリショクなど。クナリのトップは3人いるらしい。

*6:個人としての権利が尊重されない中で、全体のためにまったく貢献できない状態の人がいたらどうするのだろう、というのが気になる。おそろしいが。

*7:ブルの作り話だった可能性もなきにしもあらずか?

*8:まあ中の人は恋愛感情なるものがどんなものか知らんけど。

*9:今回のアトリアさんは実はそうではなかったのだが。文化によらないそんなセクシャリティも想定してほしかったところはある。

Dragon Age Inquisition プレイ記録⑧ 続・ロマンス「アイアン・ブル」

※この記事にはネタバレと中の人の怒りが含まれます。

※やや性的な画像があります。

 

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引き続きアイアン・ブルとのロマンスについて。最初は肉体のみの関係で、それだけでもまったく構わないのだが、とりあえず精神的にも深い関係を目指すことに。ドラゴンの歯を割って作ったネックレスを渡すことで「本気」を示すことができる。

ちなみに審問官と関係を持っている間は他の人とは性交渉しないらしい。まあ、色々気をつけるべきことをクリアしてくれたら我が審問官のアトリアさんは相手が誰と関係持ってようが別に気にしないと思うが…

 


ドラゴンの歯はいわゆるハイドラゴンの歯だ。当然、戦って殺さなければ手に入らないし、そう簡単には殺せない。ハイドラゴンは成長したメスのドラゴンで、そう滅多に姿を現さないため、これが「深い関係」を築くための必須の贈り物だとすると、クナリは実質個人的な深い関係は築かないということだろうか。もしくは本来ハイドラゴンである必要はなかったのかもしれない。

アトリアさんは何度か書いたように自然や野生生物への畏怖と敬意を持っているため殺すのはあまり気が進まないはずだが、ハイドラゴンは人間の生活領域で共存するにはあまりにも巨大で、さらに家畜や人を襲ってしまう。審問官としては安全確保のためにどのみち殺す必要が出てくるだろう。残念なことだが。

このような考え方を持つ設定に至ったのは、アトリアさんというキャラクターを最初に作った別のゲーム作品*1に由来する。巡礼中にクマを攻撃しないことによって試練が達成され、野生生物と敵対しない恩寵を受けたことが強く印象に残ったからだ*2。Dragon Ageにも生物を無駄に狩らずに済む要素があってほしかった。

Inquisitionにおいては元サークル魔道士であるため野外に出る機会は多くなかったかもしれないが、サークルでは動植物の調査なども行なっているはずなので、研究目的で野山に行くことがあってもおかしくはないだろう。常に監視のついた閉鎖空間におかれているものが、外の世界…とりわけ広大な自然に特別な感情を抱くのは不思議なことではないはずだ。今回のアトリアさんはそのような経緯を持っているとしておこう。

 

話を戻そう。ブルにネックレスを渡そうとすると、先にブルから渡したいものがあるのだという。どうやら例のプレイをまたしてくれるようだ。今度は審問官の宿舎でない別の部屋でするらしい。すると突然カレン、カサンドラジョゼフィーヌが部屋に入ってきてしまうという想定外の展開を迎える。これには笑ってしまった。

 

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…笑ってしまったのだが、カサンドラに「気晴らしか」と問われて本気の関係かそうでないかを答えることになり、複雑な気分になった。もちろんネックレスを用意してきたくらいなので深い関係を目指しているのだが、気晴らしの関係だったらなんだというのだろう。どう答えても問題ないと言ってくれるのかもしれないが(ブルとの関係は進められなくなりそうだが)、個人的な関係について問題あるかないかをジャッジされ、かなり落胆した。しかもかれらのそのうろたえ方がかなり侮辱的に感じた。その後ブルが大丈夫かと聞いてくれるが、アトリアさんはともかく中の人は正直大丈夫ではなかった。無事ネックレスは渡せたが、想定外にもやもやとした気分が残ってしまった。

はっきり言ってなぜこのような展開にしたのか理解に苦しむ。意図せず乱入してしまって顧問が驚く、まではまだ笑って許せるが、なぜああも侮辱的な反応をされなければならなかったのだろう。カレンやカサンドラの規範を重んじる性格を考えればブルや今回の審問官のような性的傾向は理解しがたいものであるだろうから、あのような反応があること自体は理解できる。ただ問題に思うのは、それが「面白い場面」として描かれていると感じたからだ。性交渉中に乱入されて個人的な関係性のジャッジをされるのは何も面白くない。

さらに考えてしまうのは、アイアン・ブルの相手は男性である場合もあることだ。今回は結果的に異性同士になっているが、同性での行為に対してああいう反応を見せられたら、はっきり言ってかなり深いダメージを負うと思う。キャラクターの意図として同性同士の行為についてああいう反応をしたのではないとしても、あのような侮蔑に感じられる反応をマイノリティ当事者は現実に嫌というほど浴びせられているし、同性同士の関係が築けるゲームにおいてですらそうした反応を見なければならないのは酷じゃないのか。少なくとも異性愛者ではない中の人には酷な場面だったし、現実に受けた差別的な態度を思い出してきつかった。せめてもっと真面目に反論できたり怒ったりできる選択肢を設けてほしい。まあ、審問官の表情は見た感じ結構怒っていたが。

 

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↑顧問らの表情がうっすら笑っていてかなり嫌だった。こういう視線が本当にこたえる。キャラクターへの好感度がかなり下がるし心底いらない演出だったと思う。

 


ついでだから書いておくが、Dragon Ageシリーズは全体的にかなり性的な要素が多く、それはシリーズのよいところであると思っているのだが、メンバー内でのセクハラ発言がやたら多いなどは今となっては問題があると思う。Originsのころに比べるとだいぶ減ったのだが、Inquisitionでもさすがにそれはやめるべきだと思う会話もあり、そこは審問官が割って入って止めるくらいの選択ができてもいいのではないかと思う*3。まあ、一番新しいInquisitionも2014年の作品なので仕方がないかもしれないが。そういう描写があることが問題というより、セクハラ発言への返しが結構面白かったりして深刻さがなく、結局「面白いやりとり」で終わっていることに一番問題があるのではないかと思う。

それと作品の外での話だが、Twitterで公式アカウントがキャラクターの見た目をいじるプロモーションをしていたのもかなり面白くなかった。そういうのはもうやめるべきだと思う。どうも問題は表現を「面白く」しようとした場合に表れやすいようだ。

自分の意識もこの7年でかなり変わったし、社会の方もそうだ。ゲーム界隈でも差別やハラスメントの問題が多々明るみになっている*4し、解決しなければならない問題が現実に山積している状態だ。全員がバイセクシャルではなく同性愛者のキャラクターがいてクエストで苦悩が語られたり、トランスジェンダーのキャラクターがいたり、BioWareセクシャルマイノリティをしっかり描いていることには当事者として好感を持っているし救われてもきた。次の作品ではもっと前進していると嬉しい。いや、続編、本当に出るのかな…と最近不安になっているんだが。

 

 

 

 

今回はプレイ記録というより文句になってしまった。いやしかしあの場面には本当に納得いっていない。ロマンスに水を差されて中の人はちょっと怒ってる。

アイアン・ブルとのロマンスについてはまだ続くのでまた次回!

 

 

《追記》

しかし思い出してみると10年くらい前の海外ドラマで、同性同士で一緒にいたところをあとから来た人たちに見られ、いい雰囲気になっていると「勘違い」され、「問題ないよ、自由だからね!」みたいなことを言われるという場面があった。当時、なんだそりゃあ、どこから目線なんだお前ら…と、もやもやした気分だったのだが、このような描写が「寛容」の表現だった時期があるのかもしれない。映画やドラマをあまり多く見る方ではないしゲームも限られた作品しかやっていないので分からないが…。マジョリティの立場にある人物が「問題ない」「自由だから」などと言い残していくのははっきり言って寛容な態度ではない。マジョリティがいいか悪いかジャッジするというそれ自体がだいぶ上から目線なのだ

 

 

 

 

 

*1:The Elder Scrolls 4 Oblivion

*2:TES4における聖戦士装備を得るためのクエストで、キナレスの祠を巡礼するときのこと。クマに襲われても反撃してはいけなかったのだが、理解せずに反撃しまくってなかなかクリアできず、大変な苦労をした。それ以来アトリアさんはあまり信仰心はないもののキナレスにだけは畏怖を抱いていた。一神教より多神教に理解を示しがちなロールプレイになるのも最初に生まれたのがTES4だったからである。まあ、中の人も一神教にあまり馴染みがないのもある。

*3:止められる会話もある。

*4:今回少し書いたTESについても作曲家のセクシャルハラスメントの問題があった。続報がないのでその後の詳細がわからないままだが…。新作にはかかわっていないらしいが、これからTES5の新バージョンが発売される他コンサートも予定されているようで複雑な気分だし、自分はその作曲家の作品は避けたいと考えている。