無真獣の巣穴

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Dragon Age Inquisition プレイ記録⑩ ロマンス完結編「アイアン・ブル」アトリアさんの視点から

※この記事には重大なネタバレが含まれます。

※台詞はうろ覚えのため、正確ではない可能性があります。

 

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前回はアイアン・ブルの人物像について書いた。クナリについてはまだ分からないことが多いが、情報を集めてみるとその考え方がおおまかにつかめてくる。


アイアン・ブルは一見すると激しい戦闘が好きなだけの単純で豪快なタイプに思える。しかしそう思わせておいて相手の警戒を解き、実は冷静に思考を巡らせながら物事を観察し、相手の心を操り、事細かに情報を探っている…と考えると本当に恐ろしい人物でもある。本人が密偵であると言ってくれなければ誰も気づかないだろう*1

アイアン・ブルは激しさと冷静さ、残虐さとやさしさ、荒々しさと繊細さなど、相反する要素を多く持ち、怒りを抑制しながら利用することで自らの役割に徹してきた。同胞から遠く離れたところでの生活が長かったとはいえ、キュンが指針となることでバランスが保たれていたとするならば、そのつながりを失ってしまった今、アイアン・ブルの支えは審問会になるのだろうか。あるいは突撃兵の仲間たち、もしくは審問官個人だろうか。少なくとも、大きな目的や役割を失わない限りは安定を保てそうに思える。

 

Originsのスタンは自らがキュンの要求に反してしまったことに取り乱し、我を忘れて農民たちを殺してしまった。最初にプレイした頃はまったく意味のわからない行動に思えたが、クナリについての知識が多少増えた今なら理解できなくはない。キュンのもとに生まれたクナリにとってキュンは明確で絶対的な指針なのであって、そこから逸脱してしまったと思ったとき、強く掴んでいてくれた手を急に離されたかのように、著しく不安定になったのだろう。安定を取り戻したのは、ブライトに立ち向かうという目的と役割が与えられたからだ。


こういったことはなにもクナリ特有のことではなく、クナリほど強固ではないにせよアンドラステ教徒も信仰が強い支えになっている場合は多い。強力な支えほどそれが揺らいだときのダメージは大きく、目的や役割を失うことはときに不安定さをもたらす。一方で、クナリにせよアンドラステ教徒にせよ、普通に生活している分にはたいして変わらない人々であり、そこまで信仰を意識していないものもかなり多いはずだ。そして、中には教えに疑問を持ったり内心反発しているものも必ずいる。今回の審問官がそうだ。

 

 

アトリアさんは反アンドラステ教会の立場だ。反乱には加わっていないが、アトリアさんにとって教会は心の支えなどではなく、自分を抑圧するだけの忌々しい存在に他ならない。あれだけ反乱が燃え上がったところを見ても、教会に対して不満を抱いている魔道士はかなり多かったのだろう。

テヴィンターを除く教会にとって、魔法は使用を制限し厳しく管理すべき危険なものだが、アトリアさんにとってはそうではない。しかしテヴィンターのように魔法が優遇され、魔道士のみが支配階級になることも望んではいない。アトリアさんにとって魔法はただそこにあるもので、自分の身体の機能のひとつにすぎない。もちろん、使い方を知りコントロールすることは必要だが、そのために死ぬまで自由を奪われることに納得などいくはずがない。

 


ちなみにクナリは魔法を極端におそれ、魔道士を非常に厳格に管理している。その苛烈さはアンドラステ教会の比ではない。Dragon Age 2に登場する、口を縫い合わせられたサレバスの姿はかなり衝撃的なものだった。魔法と感情は密接につながっているが、魔法の力を持つものは感情を自力で制御することができないと見なされている。キュンは滅私を求めているのだ。

アイアン・ブルはというと、悪魔をおそれてはいるが、魔道士自体におそれや憎しみを持っているようには思えない。突撃兵にも魔道士を受け入れており、この時点でやはり他のクナリとは異質な考え方を持っているように思う。ドリアンがアイアン・ブルに「自分もひどい目にあわされるのか?」というようなことを尋ねたとき、「子供のいる家に火をつけたことがあるか?」とブルが応え、ドリアンが「ない」と言うと、ブルは「ちゃんと相手は選ぶ」というようなことを言っていた。余談だが、このときアトリアさんの「前世の記憶*2」が少し疼いたかもしれない。とにかく、ブルは行為に対しては怒りを抱くが、属性のみで判断することはないのだろう。

 


教会のやり方に反対することと、信仰心を持たないこととはイコールではない。強い信仰を持ちながら現在の教会に反対することは矛盾なくできるし、現在知られている教えや歴史の記述すべてが正しいわけではない、とする立場もある。教会から離反したテンプル騎士も、反乱を起こした魔道士も、信仰自体を失ったわけではない。審問会にも色々な人々が集まっているが、どのような意見を持っているにせよ、アンドラステや創造主への信仰自体を拒絶しているものはそう多くはない。

アトリアさんは信仰そのものを拒絶する。信仰より事実に重きをおくからだ。自分に与えられた理不尽は押し付けられた教えに疑問を抱きやすくし、教会にかかわりの深い家柄であることは反発を招きやすくする。さらに魔法の訓練のあとは研究に没頭するしかやることがない*3となれば、信仰よりは事実を求めたくなるだろう。アトリアさんは「魔法」を特別な存在だとは考えない。また、「役に立つこと」や「崇高な使命」に価値を見出さない。信仰や使命をよりどころにすることとは対極にある生き方と言えるだろう。アトリアさんは自分の意思で自分の行き先を決め、決まった目的を持たず、誰かの役に立つためでもなく、好奇心のおもむくまま生きることで安定するのだ*4。教会ともキュンともずいぶん相性が悪そうだ。


このスタンスで審問官を務めるのはかなりやりづらい。アンドラステの使徒と呼ばれることを否定すると「謙虚」と受け取られることもあるが、そうではない。勝手に信じてもいないものの使徒にされ、事実と異なる物語にされるのはごめんだと言いたいのだ。この苦悩は異教徒である前周のデイリッシュ審問官でも同様だった。

ちなみにアダマントでフェイドに入ったときは「アンドラステに遣わされたと思っていたが…」というロールプレイ完全無視の台詞を言わされてしまい、中の人はかなり悲しかった。

 

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↑アトリアさんはそんなこと言わない。


カサンドラはこちらが魔道士だからか、このような考え方を持っていることに対して「理解はできる」と言ってくれるが、それでも「アンドラステあるいは創造主によって遣わされた存在だ」とは考えているようだ。程度の差はあれアンドラステや創造主を信じるものは大抵そう考えているようで、だからこそ審問会にこうして人が集まってくれたのだろうが、アトリアさんとしては不本意だろう。魔道士だからというだけで自分を不当に縛る信仰が、さらに審問官という役割を勝手に押し付け、自由を奪う。そして皆それを信じ、団結し、それに見合った働きを期待している。それでも目の前の危機に対処できるものが自分しかいない以上、問題をなんとかするために最大限の努力はしているが、かなり居心地は悪いはずだ。

このような負担の中で、信仰抜きに審問官を見てくれる仲間といえば、コール、ソラス、アイアン・ブルくらいだろうか。ヴァリックもこちらを使徒でなく人間として見ようとはしてくれているが、なんだかんだ実は信仰を持っているようだ。ソラスは別の意味で完全に心を許すのが難しいところがある。コール*5は信頼できるが心を通わすには異質な存在だ。モリガンの考え方はアトリアさんと共通するところがやや多いように思うが、Inquisitionにおいては親しくなれるような間柄ではなかった。

となると、完全に信仰抜きで心を許せるのは結局アイアン・ブルしかいなかったのではないか。傾向は正反対というほどに違うのだが、教会とはまったく違うバックボーンを持ち、なおかつキュンからも離れざるを得なかったブルは、勝手に信仰に絡めとられて疲れぎみの背教者にとって、ある意味もっとも親しみやすい存在かもしれない。なおかつブルの方も審問官の重圧を和らげようとしてくれるため、まさに求めているものを与えてくれる存在でもある。

 

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↑セーフワードは自分たちで話し合って決めるものだったらしい。いいことだ。その他のルールについて真面目に話し合う場面があってもよかった。


完全に消去法でロマンスの相手としてアイアン・ブルを選んだが、結果的にセクシャリティにおいても境遇においても、精神的なよりどころとしても、本当に唯一無二の相手だったかもしれない。肉体関係とはまた別のところでまさにデミロマンティックな関係を築くことができた気がする。また、説明のタイミングこそ気になったが、ルールのあるシステマティックな性的関係もかなりよかったと思う。

 


中の人としてはカサンドラのこともやっぱり諦めきれないところはあったが、性別抜きにしても今回の主人公はカサンドラと深い仲にはなれなかっただろう。セラとも厳しかったかもしれない。結局アイアン・ブルを選んで本当によかった。間違いなく今回最良の選択だった。

 

 


…というわけでロマンスについてはこれまで。ちょっと長々書きすぎたような気がする。果たしてプレイ記録は最後まで続くのか。ちなみに中の人は記事を書きすぎて最近ゲームをしていない。

 

 

 

*1:我らがスパイマスターレリアナといい勝負できそうだが、ブルがどこか非情になりきれなさを持ってるのに対し、レリアナは慈愛か冷徹かに振り切れてしまう極端さがずば抜けている。まあ突撃兵を見捨てた場合はブルも審問官よりキュンを選ぶわけだが、クナリは本来それがデフォルトである。…何の勝負だ。

*2:例によってTES4でのことだが、デイドラの秘宝を得るためにとある人物を殺害せねばならず、暗殺が苦手だったアトリアさんはわざとモンスターに追われて村に突っ込み、モンスターに襲わせてターゲットを殺害した。結果村のほとんどの住民が巻き添えになって死んだ。さすがのアトリアさんもあのときは少ない良心が痛み、それ以降なるべく犠牲者を出さない冒険を心がけたのであった。

*3:ヴィヴィエンヌのようなあり方はまれなはずだ。

*4:この作品に召喚するべき主人公ではなかった気がする。

*5:今回は精霊に近くなっている。アトリアさんは人間に近いことがそれほどいいことだとは考えていない。