無真獣の巣穴

らくがきとかゲームとかなんかそんなん。

Dragon Age Inquisition プレイ記録⑥ ロマンス

※この記事には軽微なネタバレが含まれます。

 


さて、Inquisitionでは仲間の誰かと恋愛することが可能だ。「アトリアさん」というキャラクターは他の色々なゲームでプレイしていて、恋愛や結婚の要素がある場合は必ずパートナーを作ってきた。今回も誰かしらパートナーがほしいだろう。

 

f:id:musinju73:20210912142704j:image


アトリアさんは性愛において相手の性別を条件にしないパンセクシャルだ。ついでに性愛の対象が一人に限定されないポリアモリー的な傾向もある気がするのだが、それを「同意の上で」実行できるゲーム作品にめぐり会えていないため、とりあえずパートナーは1人に限定されている*1

いわゆる恋愛感情的なものはあまり持ち合わせていないように思う。性行為は基本的に愛情表現のためではなく趣味として嗜んでいる気がする。まったく相手に何の感情も持たないというわけではなく、友情はあるだろうし、愛着みたいなものがそれなりにあるときはあるし、パートナーに対しては強い信頼を持っていると思う。非常に強い信頼がある場合にまれに恋愛感情を抱くことをデミロマンティックというらしいが、デミロマンティック・パンセクシャル、と言い表せるかもしれない。*2

恋愛指向は性的指向と必ずしも連動しない。アトリアさんはその切り分けがはっきりしている(パートナーとして精神的つながりを重視する相手と、性交渉を楽しむ相手が一致しない)ように思うのだが、そこまで想定されているゲームには出会ったことがない。趣味を楽しむ相手と強い精神的つながりを持って生活を共にする相手とが違うのは、そんなに不思議なことではない気がするのだが、あまり一般的ではないらしい。

 


こうしたキャラクターのセクシャリティは最初から想定しているわけではなく、プレイしながらなんとなく決めていく感じだ。今回のアトリアさんは他のゲームで何度も作っているため、こうした設定が最初から固まっているに過ぎない。プレイしながら手探りでキャラクターの人格を作り上げていくより楽なのだが、作品によってできることに限りがあるので、なかなかこの設定を発揮させられないことも多い。最近のゲームでは同性愛くらいは普通にできるものが多くなったが、正直もっと多様性がほしい。ストーリーやシステム上難しいこともありそうだが。

ちなみに、中の人である自分自身のセクシャリティと関係あるのかというと、特に関係はしていない。ただ、自分自身の考え方が反映されているとは思う。たまに自分自身とかなり一致しているキャラクターを作ることもある。しかしそれだと何周プレイしてもロマンスしないで終わるため、ゲーム的にあんまり面白くないのである。

※この部分については補足と反省が必要だと感じたため、別記事に書きました↓

Dragon Age Inquisition プレイ記録・番外編 補足と反省 - 無真獣の巣穴

 

 

f:id:musinju73:20210912142902j:image

↑DA2のアンダース。サークルから脱走した後アマランシンでウォーデンになり、カークウォールに流れ着いて難民の支援などをしていた…のだが。


ところで、セダスでは一般的に妊娠や性病の問題をどうしているのだろうか。少なくとも性病の治療は魔法でできるらしく、Dragon Age 2 でアンダースがやっていた*3。薬を使う医師的な存在がいるのも確かなので、そのようなものに頼ることもあるだろう。というかその方が普通なはずだ。アンダースがあれだけ難民に頼られていたのは、かれらがそうした存在にアクセスできなかったからだろう。

避妊や堕胎も現実の歴史にあったような方法が試されているだろうが、魔法でかなりなんとかなりそうに思える。アンドラステ教会が堕胎を禁じているという話はなく、そこらへんの知見はそこそこ進んでいるかもしれない。アンダースが癒し手として性病治療から出産まで扱えていたところを見ると、サークルにそのような知識の蓄積があることは間違いない。もちろんアンダースが特別だった可能性もあるが、出身を考えても*4特殊な経験があるようには思えず、やはりサークルで得た知識を使っていると考えるのが自然だ。科学的な医療はまだ発展途上らしい*5描写もあり、スカイホールドの外科医とのやりとりを思い出すと、基本的にセダスの高度な医療の担い手は魔道士の癒し手かもしれない。ただそれにアクセスできるのは一握りの恵まれたものたちだけであろうし、奔放な性交渉にはそれなりのリスクが伴うだろう。

とりあえず、今回のキャラクターは本人が元サークルの魔道士であり、ゲームシステム的には癒し手と呼べるクラスがないのだが…想定としては癒し手なので、大抵のことはなんとかなるだろう。

 


話がそれたが、まあとにかく相手の性別は問わない。上記の通り細かい設定は色々あるのだがそれをゲームで実現できるとは限らないので、とりあえず相性がよさそうな相手を探すのみだ。Inquisitionで人間の女性主人公がロマンスできる相手は… セラ、ジョゼフィーヌ、カレン、ブラックウォール、アイアン・ブル、この5人だ。この中で相性がよさそうなのは…セラとアイアン・ブルだろうか。

ジョゼフィーヌも悪くはないのだが、かなり家や家族を大事にするタイプのようで、ひたすら実家が嫌いで放浪していたい*6アトリアさんとはあまり合わなそうな気がする。カレンとブラックウォールはヘテロセクシャルで、なんと言っていいかわからないが、住む世界が違うな…という感じがしてとっつきづらかった。

 


アトリアさんは基本的にそんなに真面目なタイプではない。本来利己的で、関心のおもむくまま自分の好きなことばっかりできたらそれでいいと思っている。ただ必要な仕事を任されたらそれを完璧にこなしたいという意識も持っているし、審問官をなんとか公正にやっていこうとしているのはそれが今の状況にとって重要なことだと理解しているからだ。もちろん、その方が対外的に面倒が少なく、地位がないよりはあった方が何かとやりやすいからでもある。しかしロマンスはプライベートなので、パートナーはとにかく面白い奴がいいと思っているだろう。特に審問官の仕事はやたらストレスが多い*7ため、自由を好むアトリアさんにはストレス発散できる相手が必要だ。その候補がセラとアイアン・ブルというわけだ。

 

 

f:id:musinju73:20210912143225j:image

……それはそれとしてカサンドラを誘惑してみたが丁重に断られてしまった。彼女はヘテロセクシャルなので仕方がない。分かっていて当たって砕けてみたが割と切ない。カサンドラは少々頭の固いところもあるがそれを自覚して過ちを正そうと意識しているところが尊敬できるし、なによりタフで気性が激しい。しかも本好き*8なので趣味も合いそうなのだが、どうしようもない。まあ中の人が好きなだけだが。ちなみに、前周のプレイではカサンドラとロマンスしている。

 

 

f:id:musinju73:20210912143445j:image

まず第1候補のセラについて考えてみる。セラとは比較的相性がよさそうだと考えていたのだが、会話するたびに言い合いめいたことになり、毎度地味に好感度が下がってしまってロマンスに持っていくのが難しい様子だった。一緒に顧問にくだらないいたずらを仕掛けて楽しむなどは問題なくできるし、貴族に対して好意を持っていないあたりは一致していて、好感度が上がるときは上がるのだが、真面目な会話になると衝突しがちだ。

「ヴェシャールの行進」では黒幕の貴族を逃したことでまた好感度を下げてしまった。向こうから襲ってこない限り積極的に殺しはしない方針なのでとりあえず逃してしまったが、貴族の悪事を見逃したのが悪印象だったらしい。まあ確かにそれはそうだ。密偵勧誘して審問会に貢献してもらった方がよかったかもしれない。さらにその後の会話で「セラにも責任がある」というような発言をしたために割と険悪な雰囲気になった。

正直レッド・ジェニーの活動についてはよく分からないことも多いのだが、誰が何の目的でしているのか分からないことに手を貸すリスクをもっと考えた方がいいのではないか、とアトリアさんなら考えるだろう。生真面目な責任感は持っていないが、業務を完璧にこなしたいプライドがあるためだ。中の人としてもまるでSNSの人探しに協力してしまうような危うさ*9を感じる。ただ審問会にセラを引き入れて活動にかかわっている以上、後ろ盾として責任を持ち、リスク回避の対策を立てるべきは審問官の方だったかもしれない。と考えると、セラには少し言いすぎたような気がする。

 

f:id:musinju73:20210912143511j:image

↑今も綺麗な小箱で遊んだり盗品を埋めたりしてそうではあるが…

さらに気になるポイントとして、セラの年齢がある。言動からしてかなり若そうとは思っていたが、10年前のフェレルデンの救世主の記憶がおぼろげなレベルとなると、18〜22歳程度なのではなかろうか。アトリアさんは想定が27〜34歳程度*10なので、相手としては少々…若すぎるかな、と思う。残念ながら今回セラとは合わなそうだ。

ちなみにセラとのロマンスを諦めたあとのことだが、ミサールの神殿から帰った後に話をしたらまた言い合いになってしまった。アトリアさんは基本的に創造主やアンドラステへの信仰心をまったく持っておらず、エルフの信仰には敬意を払っているというスタンスなのだが、そこらへんが致命的に合わないらしい。

セラは堅苦しい規範に従うのは嫌うが、意外にアンドラステを信じているようだ。シティエルフは改宗を条件に異民族地区に住むことを許されたという歴史的経緯があるので、エルフがアンドラステへの信仰を持っていること自体はさほど意外ではない。それでもここまで教会と相性の合わなそうなセラが信仰を持っているというのは、やっぱりちょっと意外だ。信仰心が厚いというよりは、「物事をシンプルにとらえたい」という心理によるのかもしれない。セラは孤児として人間社会で育っているため、そもそもエルフ的な文化にそれほど馴染みがない。それなのに見た目から「エルフらしさ」を求められたり、勝手に「エルフらしく」扱われたりする場面があったであろうと想像すると、エルフの文化を強く嫌っている様子も理解ができる。

一方アトリアさんの方は出身が教会とかかわりの深いトレベリアン家でありながら、自由を求めるタイプの元サークル魔道士であるため、教会のことは抑圧の権化としか見ていない。物語より事実を好むという性格もあって、アンドラステ教には否定的な感情を強く持っているはずだ。不本意とはいえ教会と関係の深い貴族という立場上、マイノリティのエルフ文化を軽視するのはかなり抑圧的な態度になってしまうため、セラの意見には同調しづらい。さらにアトリアさんは自然に対する畏怖を持っているキャラクターであるため、どちらかというとエルフ文化の方に親和性が高い。しかもセラは魔法に対して非常に強い恐怖を抱いている。合わない要素が多すぎる。

まあ反目し合いながらのロマンスというのもなかなか熱い*11ので意見は合わなくてもいいのだが、とりあえずストレス発散にはならなそうなので今回は見送ることにした。セラとのロマンスもかなり気になるので、機会があったらぜひやりたい。審問官はどうしても審問官なので、若干威圧的な存在になりやすく、若い庶民派のセラと向き合うとなんだか支配的な構図になりそうな気がしてしまう。セラだから大丈夫かもしれないが。やるときはかなり若めの審問官を作ろうと思う。

 

 

 

というわけで、自動的に相手は第2候補のアイアン・ブルに決まった。これが色々興味深く、また色々複雑なこともあり…… 長くなりそうなのでそれは次回ということで。

 

f:id:musinju73:20210912143720j:image

↑スカイホールドの書物を物色してストレス発散するアトリアさん。ひっそりと存在するこの部屋、いかにも何か起きそうだが特に使われる場面は無かった気がする。この場所に関連するイベントがあるのだろうか。ここでコーデックスを読んだりすると雰囲気が出そうだ。

 

 

*1:Originsで作ったアトリアさんはレリアナとゼブランの二股をかけていたが、ゼブランにやんわり指摘されてレリアナを諦めた。これは双方の同意を得た関係ではないのでポリアモリーというより普通の二股。ポリアモリーな関係を築くときはそうでない場合と同じように相手との同意と誠実さが必要だ。

*2:ややこしいと思うかもしれないが、現実に性のあり方は複雑で多様なものだ。アイデンティティセクシャリティなどを表す用語は変化が速く、どんどん新しいものが増えていくため、自分でもついていけないところはある。しかし自身の状態を表す「名前」があるということがマイノリティにとっては非常に重要な場合がある。自らを知り、それを表すために新たな言葉はどんどん増え、より利便性を高めるために変化していく。細かい用語をひとつひとつ覚える必要はなく、こうした概念があるということと、現実に多様な人間が生きているということを頭の片隅に留めておいてほしい。

*3:性病の治癒をアンドラステに祈ってる人もいた気がするが、さすがにそれに効果があるとは思わない。

*4:書籍The World of Thedasに書かれている。フェレルデンの農村出身だそうだ。彼は12歳でサークルに入った。この本をもっと読めば世界観の理解が深まるのだが、全部英語…全部英語だー!!

*5:アンドラステ教会的には解剖学を異端と見ているらしく、宗教的な理由で科学的な医療がなかなか進まないという側面がありそうだ。

*6:ただしずっと移動生活ではなく、拠点となる場所がいくつか必要なタイプ。アトリアさんは一ヶ所にとどまる時期とふらふらしている時期がほしいのだ。

*7:宗教的なアイコンとしてまつりあげたり突然責任者にされたりな上、戦略を決めるのも指示を出すのも危険な現場で動くのも審問官だ。おまけに囚人の裁判まである。審問官に命かけさせすぎ、なんでもやらせすぎだ……

*8:アトリアさんは本が好き。別のゲームでは書籍の収集家をしていた。フィクションよりはノンフィクションが好きそうだ。カサンドラは前者の方が好きそうかな。

*9:一見助けたくなるような内容であっても実際に何の目的で人を探しているかは分からないので、SNSでの人探しは基本的に協力するべきでない。最悪の場合探し当てられた人物は殺されるかもしれないのだから。

*10:当初の想定がOriginsで救世主にならなかったバージョンの魔道士主人公の10年後、というものだったため。Originsの主人公は明確な年齢設定はないものの、話の内容からそこそこ若いような気がする。まあInquisitionの魔道士主人公はトレベリアン家の出身なので想定は崩れたが、年齢設定はそのまま残った。

*11:Dragon Age 2 には敵対ロマンスというものが存在した。あれはかなり面白いと思う。

Dragon Age Inquisition プレイ記録⑤ 再び「座して待つ」トム・レーニアを裁け!


※この記事ではキャラクターについての重大な秘密が暴露されているため、作中で真実を知りたい方は読まないことをおすすめします。

 

 

 

 

 

f:id:musinju73:20210911124222j:image


これまで審問官による裁判について書いてきたが、この人物について書かないわけにはいかない。罪人、トム・レーニアだ。トム・レーニアはとある貴族の一家を部下に命じて皆殺しにさせた罪で、オーレイにて処刑されるところだった。それまで逃亡中だったが、部下が公開処刑されるのを止めに入り、自らが命を下した本人だと宣言し捕らえられた。審問官は交渉によってオーレイに特赦を要求し*1、スカイホールドに連行。審問会で裁くこととなった。なぜこのようなことまでして囚人を連れてきたのかというと、この人物こそ審問会にグレイ・ウォーデンとして参加し、審問官と行動を共にしていた「ブラックウォール」だからだ。

 

f:id:musinju73:20210911124235j:image
トム・レーニアはウォーデン「ブラックウォール」を名乗って審問会に参加していたが、実は正式なウォーデンではない。嘘だったのだ。本物のウォーデン・ブラックウォールに徴兵され洗礼の儀式の準備をしていたが、ブラックウォールはモンスターに襲われて亡くなってしまったのだという。結果、ウォーデンになれず1人取り残されてしまい、行くあてをなくしたようだ。他の仲間をあてにしようにもその場にはおらず、またブラックウォールを殺害したのは自分ではないという証拠も持っていなかった。そして過去の名前を捨て、ウォーデン・ブラックウォールの名前を使って各地で「善行」をしていたらしい。

そこでなぜ本名を捨て他人の名前を名乗るようになったのかだが、おそらくそもそもが罪人だったからだろう。グレイ・ウォーデンの肩書を正式に得ることができたのであれば処刑されることはなかろうが、それが挫折してしまった。かれらが罪人を徴兵するのは何ら珍しいことではなく、むしろそういった例は多いらしい。今回のInquisitionにつながるOriginsのプレイではドワーフの主人公が階級を偽って闘技場に参加し、その罪で処刑されるところを徴兵されている。前回も書いたが、ウォーデンの徴兵権は非常に強力なのだ。

ところが、トム・レーニアは儀式の準備の途中で上官を失い、新兵として正式に参入できずに1人になってしまった。肩書きがなければ結局ただの罪人のままだ。それで、ウォーデン・ブラックウォールを名乗るようになったのだろう。

 


ブラックウォールの肩書と名前を利用して悪事を働いていたわけではなく、むしろ善良であろうとしていたようだが、審問会においてウォーデンを名乗って活動し信頼を得ていた以上、その嘘の罪は軽くはない。さらには審問会への協力を募るために古の協定を利用しようともしていた*2。実際にはウォーデンではないにもかかわらずだ。今回は回避したのだが、偽物のウォーデンと共に古の協定を利用してしまったとなれば、審問会の信用に大きな傷がつくことになるだろう。

オーレイで処刑されることになっていた罪状についても考えてみよう。当時、オーレイでは女帝セリーンとそのいとこのギャスパール大公が権力争いをしていた。トム・レーニアはオーレイの帝国軍の隊長だったが、高い報酬を目当てにギャスパール側につき、セリーンの有力な支持者であった貴族の殺害を請け負った。そして部下たちに何の説明もせずに貴族の殺害を実行させた。本人曰く、貴族が連れているのは兵だと想定して部下たちに皆殺しを命じたが、実際には子供含む家族連れで、結果的に罪もない貴族の一家を皆殺しにしてしまったのだという。実行した部下たちは捕らえられたが、自身は逃亡。その後ウォーデンに徴兵された。

 

f:id:musinju73:20210911162741p:image
まとめてみるとなかなかに卑劣な行いだが、貴族の殺害については審問会も似たようなことをまったくしていないとは言えない。金のためか大義のためかという違いはあるかもしれないが、策略のために有力者を殺しておくというやり方は我らがスパイマスター・レリアナが得意とするところだ。今回の審問官が積極的にそのようなことを命じたことはなかったかと思うが*3、情報を得るためや邪魔者を排除するために暗殺をしていないとは言い切れない。

金のためだろうが大義のためだろうが人殺しに変わりはない。どんな理由であろうと、襲ってくるわけでもない相手を殺していい理由にはならないはずだ。トム・レーニアが裁かれる一方で審問会のやることは何も問われないのだとしたら、勝者たる権力者側がやるのは許され、そうでなければ重罪だということか。あるいは大義さえあれば何をしても許されるのだろうか。本人も言っていたが、時の運があればこの行為が歓迎される可能性すらあっただろう。そんなものかもしれないが、なんともこの世の不条理を感じる。

 


ただ、それでも子供を含めた家族まで殺す必要はなかった。ターゲットにされていた貴族本人も裏でなにか卑劣なことにかかわっていた、という事情があるわけでもなかったようだ。被害者は単純に政敵の支持者だからという理由で家族もろとも殺された。部下たちは命じられたままに行動しただけで、命じた側は家族の同行は知らなかったという話だが、証拠があるわけでもない。殺されたのが家族でなく部下の兵だったとしても、何をしたわけでもないのに殺されるいわれはない。命令を実行した部下だけに責任を負わせ、隊長でありながら逃亡したことを考えても、これについて酌量の余地があるとは言えないだろう。ただ、トム・レーニアもまたオーレイのグランドゲームの加害者であり被害者でもあるとは言える。オーレイの貴族間ではこのようなことがいつも繰り広げられていて、そこに構造的な問題がある。

 


トム・レーニアに対する選択肢は「自由にする」「ウォーデンにまかせる」「嘘を続けさせる」となっている。嘘を続けさせるということは、過去のことは無かったことにして「ブラックウォール」として今まで通りに受け入れるということだろう。見て見ぬふりといったところか。自身の罪を認め、処刑されると知りながらオーレイに出頭したことを考えると、これは本人のためになる選択肢とは思えない。「処刑」や「投獄」が存在しないが、まあそうしたいなら引き渡しを要求せずにオーレイに置いてくるとよい。ただし仲間を1人失うことになるので、できれば避けたい。

ウォーデンにまかせれば、その後洗礼の儀式を受けて正式に加入することになるのだろう。ウォーデンが過去の罪を問うことはないし、腕が確かなのは審問会の活動で実証済みで、特に問題はなさそうだ。儀式に失敗すれば死ぬことになるが、どのみち処刑される予定だったため、そこは本人も納得するだろう。ただしウォーデンには穢れを通じて操られやすいというリスクがあり、今までの物語の展開を考えると新たなリスクを増やすことに協力するのも複雑だ。ブライトに対抗するには必要な組織でもあるが、そのやり方が根本的な解決にはならない、あるいは実は悪化させている可能性がなくもない。よって今回はこの選択を避けることにした。

そして残った選択肢は「自由にする」だ。今回はこれを選ぶことにした。オーレイでの罪、審問会に対する罪を考慮するとだいぶ甘く感じられるが、自由にすると言っても無罪放免ではない。ブラックウォールではなくトム・レーニアとして償いのために審問会につかえよというわけだ。これまで下してきた判決がだいたい「投獄」か「(審問会のための)労働」だったことを考えると、一貫性がないということもない…と思いたい。本人は罪を認めて出頭しているし、自らの行いが卑怯だったことを悔いているのも明らかで、部下が処刑されるのを1人で止めに行っている。またこれまで善良であろうと努めていた実績もあり、同じことを繰り返さないという意志があることは間違いない。それに審問官と共に戦うということは、審問会が目的を果たすまで危険な任務から決して逃げられはしないということだ。

 


しかし、やはりどうしてもウォーデンのルース卿のことが思い起こされる。後世へのメッセージとしてであっても無期限にあの牢獄へ放置するのは残酷に過ぎるし、また機会さえあれば社会への貢献を惜しまない人物でもあったはずだ。せめてスカイホールドの牢獄がもう少しマシなら……。

ところで、トム・レーニアが収容されているときにオーレイの牢獄を訪れたが、あまりのまともさに感動してしまった。何しろちゃんとした床と天井がある!ただやや蜘蛛の巣が多く、管理が行き届いているというほどではなさそうだ。それでも粗末ではあるが一応の寝具もあり、監視も見る限り複数人いる。もちろん素晴らしい環境とはとても言えないが、スカイホールドのそれに比べたら圧倒的にマシな空間だ。いつ崩落するか分からない牢獄に囚人を押し込めておくのは、それだけで拷問に匹敵する。審問会はぜひこの点を見直してほしい。

 

f:id:musinju73:20210911124309j:image

f:id:musinju73:20210911124319j:image

↑しっかりした作りの牢獄。素晴らしいとは言い難いが、スカイホールドよりはるかに安定している。少なくとも床が抜け落ちて落下死する心配はないだろう。

 

f:id:musinju73:20210911124413j:image

しかしオーレイでは公開絞首刑が行われているようで、見物人も多く集まっていた。しかも処刑されようとしていたのは実行犯の1人ではあるが首謀者ではない人物だ。下っ端を見せ物的に処刑して「罪を裁いた」演出だけするのは根本的な解決からもっとも遠く、そこはあまり見習いたくないなとアトリアさんは思ったかもしれない。

 

 

 

 

 

*1:オーレイからトム・レーニアを引き渡してもらうには他にもやり方があるが、別の誰かとすり替えるとか軍を出すとかだった気がする。まっとうな組織がすることではない…アトリアさんは表向き公正であることを望んでいる。まあ権力を振りかざして囚人を解放させるのもまっとうなやり方とは言えない気もするが、処刑されると困るし。

*2:アトリアさんは薄々怪しんでいたので協定は使わなかった。アトリアさんは賢明なので。中の人が3周目だからお見通しなのだ。

*3:今回の戦略テーブルでは基本的に交渉を使い、密偵は偵察や少人数での敵の討伐に専念させて暗殺は選ばない……黒カラスの協力者は使ったが。ただし、結果的には黒カラスを抜けたゼブランが協力してくれた。兵を使うことは多くはなく、大規模な探索や後片付けの他はもっぱら細々とした資金調達のために派遣している。

Dragon Age Inquisition プレイ記録④ 続「座して待つ」審問官による裁き


※この記事はメインクエストのネタバレを激しく含みます。

※肝心のイベント場面のスクリーンショットが全然撮れていないので微妙に関連のあるスクショを添えてお送りします。(元画像が暗いため見やすいように調整してあります)

 


前回はクレストウッド村長とサーニアのプーランについて書いた。どちらも限られた選択肢の中で人々のためにやれることをやったという側面はあるのだが…。やはり「事実を隠匿しない」「同じことを繰り返さないという意志」「改善の努力」という反省の姿勢が致命的に欠けていた。特にプーランは人身売買によって利益を得ていたので、無罪放免にして生活に行き詰まったら同じことを繰り返してしまいそうだ。

それにしても判決を出してはみたものの、投獄や労働というのがどの程度の期間でどういう環境に置かれるのかがさっぱり分からないため、本当にこれでよかったのかと思わないでもない。クレストウッド村長が投獄されたフェレルデンは現在アノーラ女王が治めていて、囚人を劣悪な環境に置くことを許すとは思わないが、実際はどうだろう。労働というのも気になる。何をするのだろうか。まさか生きて帰れないような過酷な労働を課すのだろうか。

まともな組織ならたとえ罪人であろうと痛めつけることはしないと思うのだが、果たして審問会はどうか。「判決は言い渡したが具体的にどこで何をするのかは知らなかった。自分に責任はない」などと言えない立場であることは審問官も肝に銘じておくべきだろう。強制的に最高責任者に据えられて何もかも丸投げされているので、酌量の余地はあると思うが。

 

f:id:musinju73:20210907073702p:image


投獄したことでもっとも複雑な気分になった囚人といえば、グレイ・ウォーデンのルース卿だ。ルース卿はブラッドマジックの儀式のために仲間たちを殺したのだという。提督クラレルの命令に従って行った組織的な過ちだが、間違った行動であったと深く反省し、打ち首による処刑を望んで自ら出頭した。

グレイ・ウォーデンはブラッドマジックの使用を容認している極めて珍しい組織だ。ブライトに対抗するという組織の性質上、使えるものは何でも使うという方針で、ウォーデンのルール上ブラッドマジックの儀式に参加したこと自体は問題なさそうだ。かれらは必要とあれば悪魔さえ使う。問題は仲間を殺したのが必ずしも同意の上ではなかったであろうことと、そもそも儀式の目的が間違っていたことだろう。かれらは偽物の「呼び声*1」に翻弄されてヴェナトリに騙され、無意味に多数の仲間の命を奪った上、世界の破滅に貢献するところだった。

ウォーデンは王族に対しても徴兵権を行使できるなど非常に強い権限を持った組織でもある。それはセダスの各勢力と交わされた古の協定によるものだろう。そんなウォーデンを審問官が裁いていいのか分からないが、発足したばかりの審問会に協定は関係ないのかもしれない。そこは審問官の考え方次第で、やったもん勝ちみたいな感じだろうか。まあウォーデンは過去にフェレルデンから追放されたりもしているし、この裁判以前に審問会が過ちを犯したウォーデンの処遇を決めてしまっているのだが。とりあえずこの裁判は意図がどうであれ「審問官はウォーデンさえ裁くぞ!」というさらなるアピールとして機能してしまうかもしれない。

 

ルース卿に対する選択肢は「地底回廊」「裁かない(釈放)」「投獄」「処刑」といったところ。グレイ・ウォーデンの歴史と功績に敬意を表するなら裁かないのがよさそうだ。そもそも提督を信用して積極的に協力したものたちは他にもいるはずで、それを認識した上でウォーデン全体に「審問会に協力せよ」と言い渡したのだから、ここで個人を裁く必要がそんなにあるとは思わない。

しかし本人が言うように「あれは過ちだった」というメッセージを示すべきだというのは説得力がある。「ブライトと戦うためならブラッドマジックや悪魔さえ使う」という性質をもって強力な徴兵権を行使できるウォーデンは常に暴走の危険を抱えている。「いくらウォーデンでも許されない行いはある」というメッセージを後世に残すのは意義あることだろう。

それにしても打ち首というのはどうだろう。後世に必要なメッセージを残すために自ら見せしめとして死のうというのだから本当にそれは凄いのだが、そんな見せしめを堂々と実行してしまう審問会は危険な存在になってしまわないだろうか。このような人物はむしろ頑張って社会に貢献してほしいのだが、確かに後世に教訓を残した方がいいとは思うので、ここは「投獄」を選ぶことにした。

ウォーデンらしく地底回廊で戦って死ぬべし、というのを選んでもいいかもしれないが、ウォーデンの穢れの性質を考えると最期に地底回廊へ行く慣わしは本当に大丈夫なのか疑問に思う。無事に死ねたらいいだろうが、死ねずにいると操られたりしないだろうか。生きたまま捕らえられ「変えられて」しまったらダークスポーンを量産することになってしまう*2。深く考えるとあまり選びたくない選択肢だ。

しかしこの「投獄」だが、「無期限」となっているのだ。ルース卿に対しては重すぎるように思う。しかも、スカイホールドの牢獄は本当に状態が悪い。期限付きでもあそこに入るくらいなら処刑された方が若干マシなのではと思えるくらいひどい。あのまま使っている審問会が理解できない。直せないなら他に作るとかしなくていいのか。まともな組織を目指すなら、審問会はまず牢獄の環境をもっとマシにするべきだ。ルース卿には本当にすまないことをした。

f:id:musinju73:20210907073825j:image

↑スカイホールドの奥の方の牢獄。安定していそうな床がほとんどない。部屋の中は石の床が存在するので多少マシだが、様子を見にいくのも命懸け。

f:id:musinju73:20210907073847j:image

↑投獄されたルース卿。この部屋には寝具らしきものも見当たらない。ちなみによくよく見ると光が差し込んでおり、天井が抜けているような気がする。

f:id:musinju73:20210907073907j:image

↑向かい側にある部屋の方が若干マシである。せめてこっちに入れればいいのに…

 

 

f:id:musinju73:20210907073942j:image

もう一件、大公女フロリアンヌの裁判はなかなか興味深かった。大公女はオーレイの女帝セリーンの暗殺を企てていた真犯人だ。コリーフィウスの下で世界を手に入れたかったらしい。野心的な、絵に描いたような悪役だ。

コリーフィウスは社会的な立ち位置や他人の命など気にかけるようなタイプではなく、どうやらこの世をその力で支配したい古の存在だ。それに積極的に協力することは「自分に利益があれば大虐殺も辞さない」ということだろう。さすがにこれを許すわけにはいかない。ただ未遂に終わっており、すでに野望はついえている。


大公女フロリアンヌに対する選択肢は「追放」「道化師にする」「修道院へ行かせる」「密偵勧誘」「労働」だいたいこのようなものだ。道化師にするというのは嘲笑うために屈辱的な芸をやらせるのだろうか。アトリアさんも性格は悪い*3が、あまりそういうことは面白がらなそうだ。「処刑」がないのは、わざわざ処刑せずに連れてきた人物だからだろう。「投獄」がないのが少し不思議だ。

そして注目すべきは「労働」の内容なのだが、これが「市民と一緒に汗を流せ」というものなのだ。言葉の内容から、なんとなく労役や懲役のようなものとも違うように感じられる。「一般市民と一緒に普通に肉体労働して生活せよ」というふうに聞こえる。宮廷で豪勢な生活をしてきた貴族に市民生活を味わわせる。これはなかなかいい選択肢なのでは。そう思って前回のプレイではこれを選んだ記憶がある。

しかしちょっとひっかかるところがあった。市民と共に汗を流すことが懲罰であってたまるか、という気持ちが芽生えたのだ。ゲームのロールプレイは置いておいて、中の人たる自分は現役のブルーカラーだ。この国の偉い連中、1日くらいここで働いてみろと思うことも結構ある。しかし、自分の仕事場に来るのが「懲罰」だったらちょっと複雑だ。市民との労働や交流の経験によって更生をうながすと思えば悪くはないのだが、貴族に対する「屈辱」として体験させるのだとしたら結構失礼な話だ。

というわけで中の人の個人的感情により市民との労働は選ばず、どうせ働くなら適材適所になおかつ審問官の目が届きやすいところで、と考えて「密偵勧誘」を選択したのだった。ただ、市民と一緒に汗を流すことが身分の剥奪も意味するのだとしたら、やっぱり悪くない選択肢だったのかもしれない。

 


しかしクレストウッド村長やプーランが苦しい中でなんとか生き延びるために犠牲を出していたのに対して、フロリアンヌ含めオーレイの宮廷の貴族たちは「グランドゲーム」と称して日頃から当たり前のように裏側で殺しをしている。そこで犠牲になるものの多くは貴族に使われるスパイや身分の低い召使いたちだ。自ら手を汚すこともなく、それが裁かれることもない。ゲームは政治的な駆け引きでありつつ伝統文化でもあり、娯楽的な側面もある。狡猾に、うまくやるほど評価は高まる。オーレイの貴族階級の中で生きるのには必須の要素だが、「生きるため」の意味合いの違いに途方もない格差を感じる。かれらの生活は言うまでもなく一般市民や二級市民*4の搾取の上に成り立っている。この危機迫る情勢の中でさえゲームに興じているその様は、華やかなオーレイの暗部を表している。

 

f:id:musinju73:20210907074124j:image

ジョゼフィーヌの個人クエストでは彼女がオーレイでバードを目指していた頃の話を聞くことができる。グランドゲームにおいては死も駆け引きの要素に過ぎないが、ジョゼフィーヌの思い出話は「殺人」が一個の人間の未来をすべて摘み取ってしまうという、ごく当たり前のことを思い出させる。そしてどんな大義名分があったとしても、審問官の日常が人殺しであることを思い知らせてくれるのだ。

多くの囚人が様々な理由で裁かれる一方、決して裁かれることのない特権階級にあるものもいる。そして着実に地位を高めている審問官もそうなりつつある。そろそろ審問会を縛る鎖も必要そうだ。

 

 

f:id:musinju73:20210907074553p:image

↑ちょっと舞踏会の疲れが出ているアトリアさん。

ちなみに今回の審問官アトリアさんは一応貴族なのだが、出身が自由連邦なのでグランドゲームの経験はないようだった。舞踏会ではゲームに対するあきれた感情を持っていただろうが、負けず嫌い*5でもあり、見事に「舞踏会の麗人*6」を演じきった。中の人は3周目なのでそこそこ慣れているのだ。ダンスではとにかく直球を避け、質問は質問で返し、ひたすらまわりくどい選択肢を選ぶと高評価を得られる。よくわからないがそれがオーレイの作法なのだろう…

 

 

 

f:id:musinju73:20210907074648p:image

とりあえずBioWareは牢のカスタマイズを用意してくれ…カサンドラに生きたまま食わせるぞ。

 

 

 

 

*1:本来は「死期」が迫る頃に聞こえてくるもの。ウォーデンは穢れによってアーチデーモンと繋がりを持っている。Originsではアリスターも主人公も新兵だったのでまだ穢れは浅く、アーチデーモンの夢を見る程度だったが、歳と共に繋がりが増して色々聞こえたり色々見えたりという感じだろうか。アリスターが詳しい話をしていた気がする。

*2:Originsの地底回廊でのメインクエストで判明する。怖い。

*3:大公女を見下ろしながら「私のパーティへようこそ」はなかなか尊大でよかった。

*4:オーレイのシティエルフの生活について詳細に描かれていないのだが、豊かな生活をしているならブリアラが立ち上がる必要はなかったわけで。

*5:でも急にどうでもよくなって投げ出したりもしそう。気まぐれでうそつき。ハンターハンターならたぶん変化系に違いない。

*6:宮廷の好感度100で得られるトロフィー。もちろんばっちりゲットした。