無真獣の巣穴

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Dragon Age Inquisition プレイ記録⑨ 続々・ロマンス「アイアン・ブル」人物像について

※この記事にはネタバレが含まれます。

 


引き続きアイアン・ブルとのロマンスについて。前回は思わぬ展開に中の人がカッとなってしまった。しかし本当にあの場面はいらないと思う*1

 


気を取り直そう。とにかくアイアン・ブルにドラゴンの歯のネックレスを渡し、「まれな」関係になることができたようだ。そして「カダン」と呼んでくれるようになる。「愛しい人」の意味だそうだ。自分の記憶によればその言葉には親愛の意味は込められているが、恋人のみに使うものではなかったような気がする。何度か使われている場面があったはずだ。そもそも恋愛というものがおそらくクナリに存在しないため、恋人専用の呼びかけの言葉がなかったりするのだろうか。というか、そういえば英語の「my love」なども別に恋人にだけ限定して使われる呼びかけではないのだった。この場合クナリが特別なのではなく、日本語にこれに相当する言葉がないということか。

 

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アイアン・ブルとはどんな人物だったか。それは「クナリ」を理解しなければ難しい。

今までクナリ、クナリと呼んできたが、厳密には「クナリ」とはキュンに従うもののことを指し、種族を指しているわけではない。アイアン・ブルのように角のある大柄な種族には「コシス」という名称があるようだが、実際当事者もあまり使っていないし、やはりクナリと呼ぶのが一般的だ。Originsのスタンには角がないように、コシスに必ず角があるというわけではなく、また角がないからといって扱いが変わったりするということもこれまで見た限りはなかったように思う*2。クナリにとって種族としての見た目の特徴はそれほど重要ではないのかもしれない。実際、種族にこだわりがあるわけではないようで、キュンにさえ従えばかれらはエルフでも人間でも受け入れる*3。特にテヴィンターで奴隷として扱われるエルフには、役割に従えば平等に受け入れてくれるキュンは魅力的に映るようだ。ただし選択的な交配が行われているところを見ても身体機能はおそらくかなり重視されている。

 

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↑タマスレンがコシスとドラゴンを交配した… という迷信の話。さすがにそんなことは… しかしクナリの科学は結構進んでいるらしいぞ。いやしかし。

 


今回のアイアン・ブルはキュンから離反させてしまったので、厳密に言えばクナリではないことになる*4。彼はいまやタル・ヴァショスだ。

ブルはタル・ヴァショスを強く嫌っている。キュンに従うクナリなら一般的に皆そうだが、彼の場合それはセヘロンでの体験によるところが大きいようだ。セヘロン島はテヴィンターとクナリが激しい戦いを繰り広げている地域で、さらにタル・ヴァショスや原住民の反乱軍も加わって泥沼の様相となっている。そこでの活動は長くて2年が限界だと考えられていたようだが、ブルはベン・ハスラスとして10年近くも活動していた。そこで見たタル・ヴァショスは残忍であり、かれらは子供たちやブルの部下、さらに長年の友人を殺した。最悪の事態を目にしたとき、彼は怒りで我を忘れてしまった。そしてそれを危険視し、自ら「再教育」を受けたのだという。

クナリはキュンに従いさえすればどんなものでも基本的に殺しはしない。たとえ囚人であってもだ。しかし従わないものは「再教育」を受けることになる。これは拷問による洗脳に近い。またかれらは薬物を使って精神を破壊することもある。それを自ら受けに行ったのだから、ブルの怒りがどれだけ激しく、抑えるのが難しく、その途方もない怒りを自ら恐れていたかが分かる。

彼は民間人を殺すのを嫌い、セヘロンの原住民とも親しくていたようだ。審問官と一緒に戦っているときの台詞からは難民を傷つけるものを憎んでいることがわかるし、貴族がまともな統治をしないために貧しいものが盗賊をやるしかないことに理解を示したりする。そしてキュンに従わず山賊として民間人を殺すタル・ヴァショスを強く嫌っている。セヘロンでの光景を思い出すのだろう。

ちなみにセヘロンにいた頃の名前は「ヒスラッド」で、それは「幻想を生み出す者」や 「嘘つき」を意味するらしい。彼は見た目からは想像もつかないほど観察力が鋭く、嘘をつく能力に長けているから、だそうだ。まさに密偵向きと言える。クナリは固有の名前を持たず、特徴や役割を表す名前で呼ばれるため、役割が変われば名前も変わる。「アイアン・ブル」はタル・ヴァショスを装って活動するために自らがつけた名前だそうだ。

タル・ヴァショスを嫌うブルがタル・ヴァショスになってしまったのは不本意だろうが、クナリはキュンに従わないものを許しはしない。元々ブルは忠実にルールに従う性質ではなかったらしい上に、一度は我を忘れて暴走している。クナリを見捨てて突撃兵を生かしたことが決定打になり、離反したと見なされたのだろう。しかし、だからといってアイアン・ブルからキュンが突然消えるわけではない。やはり行動のあらゆるところにキュンの考え方が存在している。

 


キュンはなかなか理解の難しいものではあるが、個ではなく全体を重要視しているのは確かだ。「全体を一個の生き物として考えている」という例えは非常にわかりやすい。キュンに従う人々は全体にとっての手足のようなものだ。かれらはすべてのものに価値があると考えているが、それは「手足として」であって、それぞれの個を尊重することはない。クナリという全体が一個の生き物であり、手足はそのために動くことを求められている。そこから勝手に離れたり「魂」である司祭職*5を無視した行動を取ることは許されない。「再教育」は手足としての機能を取り戻すための「治療」である。クナリはどんなことをしたものであれ簡単に処刑したりはしないようだが、それはおそらく自らの手足をやすやすと切り落とさないのと同じことだ。使い道のある限り、切り捨てはしないのだろう。キュンはすべてのものに役割を与える。キュンに従うものは注意深く観察され、もっとも適切と思われる役職を与えられる。おそらく当人が強く拒絶しているようなことをさせたりはしないだろう。強く拒絶している時点で「適切」ではないからだ。ただ求められるのは、「全体のために」なんらかの働きをすることだけだ*6

キュンはクナリ以外の奴隷や農民などの貧民に一定の需要があるようだが、役割さえ果たせば平等が得られるのは、やはり理不尽な労働を強いられているものにとっては魅力的だろう。そこには秩序があり、安定があり、種族や見た目で判断されることもなく、自分に見合った仕事を与えられ、それさえ果たせばひどい扱いを受けることはない。戦いに向かないものを戦いに行かせることもおそらくない。しかし徹底した全体主義と合理主義であり、そこから逸脱すれば生きてはいけない。たとえば、指示を無視して自分の保身のために行動したり、全体より仲間を優先して助けてしまったり、だ。クナリが個人同士での深い関係を結ばない理由がなんとなく分かってくる。

クナリには血の繋がりによる家族は存在しない。生殖はタマスレンによって管理されている。生まれた子供は集められ、タマスレンが育てる。自分が誰の子供かを知ることはないのだそうだ。タマスレンは教師でもあり、クナリの価値観を徹底的に教育し、そして注意深く観察してどのような役割に当てるべきかを見る。このようなシステムである以上、恋愛や結婚は存在のしようがなさそうに思える。それでも伝統としてドラゴンの歯の話がある以上、やはり個人間の深い感情がまったくないわけでもないのだろう*7。しかしそれは我々が知っているような恋愛感情ではないだろうし*8、そもそも恋愛というもの自体、大部分は文化によって形成された価値観なのだ。そして個人同士の深い関係がどれだけ強かろうと、クナリにおいてはキュンが一番に優先されなければならないのは間違いないだろう。よって、タル・ヴァショスにならない場合のアイアン・ブルとどれだけ関係を深めたとしても、彼は最終的にはキュンを優先するのだ。

 

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↑ベン・ハスラスの技能のひとつとして、マインドコントロールのようなものがあり、それを審問官との性行為に使っているらしいのだが、拘束プレイの一貫として使っているのかと思っていたらなんだか苦悩を忘れさせるために使っているぽくてやさしいのだった。


アイアン・ブルとの肉体関係は、最初の段階では深い精神的つながりがなく、「性的なアトラクション」を提供しているようなものだと以前に書いた。それについて対価を求められなかったのは、こちらが居場所を提供しているからだろうか、と思ったのだが、しかしそれがキュンの考えに基づいた行動だと考えると理解できるような気がする。つまり、審問会や審問官は世界にとって必要な存在で、審問官が求める癒しをブルは与えたのであり、必要な役割を果たしただけにすぎないのだ。審問会の他のものにもそれを提供しているのは、かれらが審問会のために仕事をする中でストレスをためていて、その疲れを審問会のために癒した、それだけだ。審問官と関係を持つ間に他のものと関係を持たないのは、それが審問官の求めることだからだろう*9。そもそも、クナリは人間社会にあるような通貨を持っていないらしい。クナリが一個の生き物だとすると、栄養は適切なところに適切な分だけ送る。対価を持っているものに多くを与えるなどあり得ないことだろう。

もちろんブルの個人的好みや快楽がまったく存在しないわけではないし、彼は酒が好きだし赤毛が好きだという嗜好を持っていることも間違いない。必要だからという理由で結局自分の欲求を満たしている側面がないとは言えないだろう。しかしそれでもやはり奉仕として機能する限りで快楽を自分に許しているのであって、間違っても享楽主義ではない。

 


アイアン・ブルのこのような「奉仕」の姿勢はキュンの考え方からきていることは間違いないが、ブルの個性がまったく関係ないわけではない。彼は子供の頃からまわりへの気配りを欠かさず、体調の悪いものがあればすぐに気づいて報告していたらしい。まるで保護者であるかのように。突撃兵に対してもひとりひとりに気を配っているのがよく分かるし、皆の意見をよく聞いている。審問官の一押しさえあれば、キュンに背いて自らの部下を守りさえするのだ。

実のところ、アイアン・ブルの個性はキュンとは相性があまりよくないように思える。彼は子供の頃から、問題解決のためにルールから逸脱することがあったようだ。セヘロンでは仲間や子供たちのために我を失って命令を無視している。おそらく、ブルは全体の利益やルールに必ずしも忠実ではなく、個を尊重する傾向にある。そしてだからこそセヘロンの地元住民にさえ親しまれ、はみ出しものを集めた突撃兵のよき指揮官であり、その凶暴そうな見た目にかかわらずネヴァラやオーレイでも人気を得てきた。その一方で密偵として報告を欠かさない実直さがある。そんな面がタル・ヴァショスを装ったベン・ハスラスとしては有用だったのだろうが、やはり危険視されてもいたからこそ、その役割を与えられていた。アイアン・ブルのパーソナリティはキュンによって形作られながら、根本的にはキュンの下で生きるのが難しい、クナリの「変わり者」なのかもしれない。

 

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↑心配りの塊。

 

 

今回はアイアン・ブルという人物について考えてみた。コーデックスや会話、The World of Thedasに書いてあることを参考にして推測交えてまとめてみた感じだが、取得していないコーデックスも多いし、会話は記録がなくてうろ覚えのことも多い。The World of Thedasについてはほぼ機械翻訳に頼っているため誤訳や翻訳抜けで正しく読めていない可能性がある。不正確な点があるかもしれないことをご了承願いたい。

 

 

ここらへんでロマンスについては終わりにしたいと考えていたのだが、……まだ書くことがある!次回をお楽しみに(してる人いるのか?)。

 

 

 

 

*1:まあしかし今回のプレイに限っては、カサンドラに本気かどうか問われるのは展開としては自然だったかもしれない。なにしろ散々カサンドラを誘惑して振られた直後にブルと寝てるのだから。もちろんアトリアさんの誘惑は冗談などではなく、全部本気である。まあ、恋愛感情という意味の本気ではないと思うが…。

*2:正直OriginsからDA2までの間にクナリの設定が若干変わったのではという気も。ただしクナリのブルードマザーから産まれるとされているオーガには初登場時から角がある。

*3:ブルの話を聞いていると、おそらくトランスジェンダーでもキュンに従いさえすれば受け入れられるようだが……性役割がかなり強固そうなのがネック。

*4:キャラメイクではクナリの主人公も作れるが、説明を見る限りタル・ヴァショスという設定であるため、やはり厳密に言えばクナリではないのだろう。

*5:DA2に出てきたアリショクなど。クナリのトップは3人いるらしい。

*6:個人としての権利が尊重されない中で、全体のためにまったく貢献できない状態の人がいたらどうするのだろう、というのが気になる。おそろしいが。

*7:ブルの作り話だった可能性もなきにしもあらずか?

*8:まあ中の人は恋愛感情なるものがどんなものか知らんけど。

*9:今回のアトリアさんは実はそうではなかったのだが。文化によらないそんなセクシャリティも想定してほしかったところはある。